テーマ:山登りは楽しい(12033)
カテゴリ:日本アルプス登山記
09年07月19~23日 西岳~水俣乗越~北鎌尾根~槍ヶ岳~双六岳(7月19日・第1日目)
「穂先は近い 気を抜かず頑張れ」 雨に濡れたレリーフを見つけた。やはりこれが槍ヶ岳だったか。辺りはガスで視界が利かない。それでも顔を上げて切望していた槍の穂先辺りを見つめる。雨が目に入る。それでもオレは、ガスに覆われた頂上辺りを暫く見つめた後、頭を下げて大きく息をついた。一度目を瞑り、深呼吸を繰り返しながら自身の身体のチェックをする。寒いな。全身びしょ濡れである。指先が少し麻痺している。疲労で足の動きが鈍い。いや、足だけではない。身体全体が重い。しかしもちろん、動けないことはない。再び顔を上げた。(よし、行くぞ!)オレは「応!」と吼え、最後の力と気力を振り絞り、岩に向かった。 ついに、槍ヶ岳北鎌尾根をやることにしたのだった。去年の夏、西穂高岳~槍ヶ岳まで縦走し、次は北鎌尾根をやってやろう、と考えていた。そして今年の5月、雪の槍ヶ岳山頂から北鎌尾根を眺め、決意を固めたのであった。それからずっと、頭の片隅には北鎌があり、少しずつ装備を整え、通勤電車では地図を眺めた。ちなみに山道具の店ではご丁寧にも北鎌尾根ルートのビデオを売っている。しかし、それは見ないことにした。去年の西穂高~奥穂高コースの時もそうだったが、なんとなくカンニングするみたいで嫌だった。でも、不安から「ちょっと見ておこうか」と買いそうになったことも確かだ。お金がいっぱいあったら買っていたかも。貧乏に感謝。 なぜ、北鎌尾根を歩いてみたいのか。別に槍ヶ岳に登るだけなら、楽なルートがある。しかし、北鎌尾根は特別なのである。やはり、新田次郎著「単独行」の影響が大きい。大好きな本なので、もう何度も読み返している。その主人公、不世出の単独行者、加藤文太郎が散ったのが、この槍ヶ岳北鎌尾根なのである。松濤明の壮絶な手記「風雪のビヴァーク」にも感銘を受けた。ちなみに両人共、冬の挑戦で、夏とは雲泥の差なのだが、それでも、「キタカマ」はオレにとって憧れだった。やってやるぞ! 今回の全装備。嫁さんのいない間に自作のリストと照らし合わせ、指差し呼称した後、パッキングする。 7月18日、仕事を終えて車で平湯温泉へ。夜中に到着してそのまま車で寝た。翌19日、4時に起床、準備を済ませてバスで上高地へ向かい、6時30分、出発。この日はヒュッテ西岳までなので気が楽である。ゆっくり写真を撮りながら歩こうと考えていたが、花があまり咲いていず、天気も雨が降ったり止んだり。 上高地で一緒に歩いたサル。 10時20分に槍沢ロッヂに着いた。休憩しているうちに雨が本降りになってきた。(歩くの、億劫やなあ…)このままここに泊まろうかとも考えた。しかし、翌日の負担を軽くしたいし、晴れれば、朝、西岳からいい景色が見られる。もとより、あまり本気で槍沢ロッヂに泊まろうと考えているわけでもない。 雨の中、どんどん登って大曲、そこから急登して尾根に出た。東鎌尾根の水俣乗越。13時。ガスの切れ目から明日歩くはずの天上沢が見えた。反対側を見ると、今登ってきた槍沢が見下ろせた。さて、もうひと踏ん張り。東鎌尾根を歩いてヒュッテ西岳に着いたのは14時過ぎだった。 ヒュッテ西岳は思いの外混んでいた。聞けば、みんな燕岳方面からやってきて、本当なら槍ヶ岳まで行くはずが、悪天のためここで泊まることにしたそうな。母親を連れて槍ヶ岳まで行くという、なんとも親孝行な好青年がいた。オレも爺さんになったら、ムスコにこうして山に連れてきてもらいたいなあ、と羨ましかった。しかし考えてみると、今、オレは親孝行していないのだから、かなりムシのいい話だ。夕食後、虹が出て、青空が覗くようになってきた。常念岳がやけに大きく見えた。天気予報では雨のち曇りだったが、これは晴れそうだ。全く、この数日の天気予報は全然当てにならない。 ヒュッテ西岳より。常念岳がひときわ大きく見える。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年07月26日 21時34分41秒
[日本アルプス登山記] カテゴリの最新記事
|