[複数の税目にまたがる論点]の記事一覧 | 税理士の本音

平成２５年度税制改正大綱　その１

　みなさんこんにちは。今年初めての更新です。　1月24日に、自民党の税制調査会から「平成25年度税制改正大綱」が公表されました。緊急経済対策の一環として「生産等設備投資促進税制」や「所得拡大促進税制」，「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が新たに設けられ，研究開発税制，雇用促進税制などが拡充されています。　消費税率の引き上げに際して、平成24年度中に法制上の所要の措置を講じることとなっていた所得税や相続税の抜本改正も盛り込まれています。所得税の最高税率の引上げ，相続税の基礎控除の引下げと税率区分の見直し，贈与税の緩和措置が実施される予定となっています。　相続税の抜本改革に併せ見直すとしていた事業承継税制については，後継者要件の見直しや手続きの簡素化などが行われています。　消費税率の引上げに関連して，その負担の緩和措置として住宅ローン控除の適用期限の延長と控除限度額の引上げが予定されています。また与党で検討されていた食料品等に対する軽減税率の導入は先送りされています。　大綱の具体的な内容については、原文を読み込んで、検討していきたいと思いますが、一定の資産を取得した場合の投資減税、一定以上給与等の支給額を増加させた場合の税額控除制度、交際費課税の改正や相続税の基礎控除の引き下げなど、私の事務所のお客様にも関係する事項も少なからず含まれていますね。　今回は中小企業や中小企業オ－ナ－の税負担に影響を与える項目が数多く含まれていますので、丹念に読み込む必要があるようです。

同族会社に資産を低額譲渡（利益移転）した場合の課税関係　4

　こんにちは。木村裕です。　前回の続き（残りの部分）を記載します。　前回までは社長の父親から土地を低額で譲り受けた会社の課税関係について検討してきました。　今日は残りの部分、会社の社長と、土地を低額譲渡した社長の父親の課税関係について検討したいと思います。1.社長である甲さんの課税関係　本件土地譲渡取引の当事者はＡ社と社長の父親である乙さんですから、直接的には社長は本件土地譲渡取引には関わってきません。しかし社長の父親が本件土地を低額譲渡することによって息子である社長が保有するA社株式の価値は増価しています。このような間接的な利益移転を防止するために相続税法９条と相続税法基本通達9-2の取り扱いが定められています。したがって同族会社であるＡ社社長である甲さんには、相続税法９条の規定を根拠として贈与税が課されることになります。2.土地を低額譲渡した乙さんの課税関係　土地を低額譲渡したお父さんに対して本件土地の時価相当額での総収入金額を認識するのは、今まで述べてきた利益移転防止のため、というわけではありません。　所得税法における総収入金額の計上は、所得税法３６条に規定されていますが、こちらの規定の解釈については、「対価なければ課税なし」を原則としています。つまり法人税法２２条２項に規定するように無償譲渡取引等に際して、時価相当額により収益計上する必要がないということです。　所得税で、無償譲渡につき、所得税を課さないこととしている理由については、個人は法人ほど合理的な存在ではないから無償譲渡について所得税を課税しないことにしているのだという解説を読んだことがあります。租税回避を意図して特殊関係者に多額の無利息貸付をした事例（平和事件）では、対価が無くても利息が認定課税されていますが、これはかなりの特殊事例ですから、一般的には、所得税法３６条の「対価なければ課税なし」の解釈についての変更はないと考えています。　このように原則として所得税法３６条の規定により対価がなければ総収入金額を認識しないことになるのですが、当該原則的規定の例外として所得税法５９条１項の規定が存在します。　当該規定の内容は、個人が法人に対して譲渡所得の基因となる資産を贈与などした場合には、時価により総収入金額を認識するとなっています。　この規定の存在理由は、一言でいうと所得税のとりっぱぐれを回避することにあります。譲渡所得の起因となる資産が個人間を転々としている場合には、仮に低額譲渡があった場合でも、低額譲受人が次に時価で譲渡する際に、当該資産のキャピタルゲインに対する所得税の課税は完了することになりますが、当該資産が法人に移転した場合には、所得税を課す機会が失われてしまうため、所得税法５９条１項により時価相当額での総収入金額を認識することとしています。　このように一つの取引事例でも、法人税・所得税・相続税など複数の税目に課税関係が波及することはままあります。また個々の規定にもそれぞれに存在理由があります。　今まで分からなかった課税関係や規定の存在理由を理解できたときに喜びを感じますね。　職人型税理士を目指して、これからも雑文を記載していきたいと思ってます。木村裕税理士事務所　　　　　　　

同族会社に資産を低額譲渡（利益移転）した場合の課税関係　3

　こんにちは。木村裕です。　前回は時価１億円の土地を社長の父親から1,000万円で取得した同族会社の課税関係について説明しました。　当該取引は法人税法２２条２項に規定する無償による資産の譲受けに該当するため、時価と実際の取得価額との差額である9,000万円が益金に追加計上される旨説明いたしました。　ついでに私見ですが、第三者間取引においては原則時価が問題になることは無い旨も説明しました。　取引課税の税目である法人税や所得税では、実務書でも課税関係を検討する上で時価は所与の条件として与えられていますので、時価は評価者の主観が介入しない客観的なものに見えてしまうかもしれません。　しかし現実には評価者の主観が介入しない時価が存在する経済財は極めて限定的です。具体的には活発な市場が存在する上場株式や特定の商品（原油・ガス・金・銀など）などに限定されます。それ以外の活発な市場が存在しない大半の経済財の時価は、必然的に、時価測定者の主観が混入することになります。　本件事例に係る低額譲受けの対象となった土地についても活発な市場は存在しませんから、当然に時価測定者の主観が混入することになります。例えば近隣の取引事例を参考に時価を推定する場合においてもどのような取引事例を選定するかについては主観が混入しますし、収益還元方式で時価を測定しようと考えても将来ｷｬｯｼｭﾌﾛ-の見積りや現在価値に引き直すための利子率の設定で主観が混入します。このように大半の経済財の時価の測定には測定者の主観が入るということは認識しておいても損はありません。　では、課税庁が想定する時価よりも低い価額で取引が成立した場合には、当該取引は常に時価で是正されるのか、という疑問点が生じるかもしれません。　これについては、私見ですが、少なくとも第三者間取引については、取引の安全（私的自治）の方が優先されると考えています。ただし一般に想定される時価よりも低額で高額資産を譲渡した場合には、その合理的な理由などを整理し、経済的合理性のない取引だと事実認定されないように準備する必要はあると思います。　これに対して特殊関係者間取引の場合には、実際の取引価格（取引の安全）よりも、利益移転の防止が優先される、というのは先に説明したとおりです。　この後の続き（残りの部分）は次回記載します。　木村裕税理士事務所　　　　

同族会社に資産を低額譲渡（利益移転）した場合の課税関係　2

　こんにちは。木村裕です。　昨日の話の続きをします。　今日は社長のお父さんから時価１億円の土地を1,000万円で譲ってもらった会社が主人公です。　法人税法の２２条２項では、益金の額に算入される金額の範囲を次の取引に係るその事業年度の収益の額と規定しています。　1.資産の販売　2.有償または無償による資産の譲渡または役務の提供　3.無償による資産の譲受け　本件事例の場合には、本件土地の取得取引は、対価1,000万円による有償取得と、9,000万円部分の受贈取引とに分解して考えることになります。　したがって、受贈取引部分については、3.の無償による資産の譲受けに該当するため、Ａ社は9,000万円の受贈益を計上する必要があります。　ところで何故に3.の無償による資産の譲受けや2.の無償による資産の譲渡や役務の提供に係る収益の額を益金の額に算入しようとしているのでしょうか。　現実の収入が無ければ、税金を負担する能力（担税力）も存在しないと思うのですが。　この点については、やはり親族間等の特殊関係者間の利益移転を防止するために、法人税法でこのように規定しているのだと思います。　3.の無償による資産の譲受けについては、企業会計においても公正価値で評価することになっていますが、これは期間損益の適正化のために時価評価するのであって、法人税とは目的が異なります。　したがって、利害関係を共有しない第三者間の取引であれば、そもそも時価が問題となることは原則としてないと考えます。第三者間で利益移転を意図することはありませんので。　第三者間取引では当事者間で成立した取引価格が収益計上されることになると考えます（事実認定の問題は残りますが）。　続きは次回に記載します。　木村裕税理士事務所　

同族会社に資産を低額譲渡（利益移転）した場合の課税関係

　みなさんこんにちは。木村裕です。　私自身の勉強を兼ねて、事例問題の検討をしたいと思います。　　個人から法人、及び個人から個人への利益移転に対する課税上の取り扱いをテ－マにします。★事例★　内国法人である株式会社Ａ社（以下「Ａ社」）の代表取締役である甲は、Ａ社の発行済み株式の全部を保有している。　Ａ社は飲食店を営んでいるが、近隣に大手資本の同業他社が進出したために会社業績が悪化している。　そのため甲は、資産家である甲の父親である乙にＡ社に対する経済的支援を要請したところ、時価１億円の乙所有の土地を乙の購入価額である１千万円でＡ社に譲渡することとした。　Ａ社は低額譲受した土地を第三者に売却するか、当該土地を担保に金融機関から借り入れをするかにより資金繰りの安全性を確保しようと考えている。★想定される取り扱い★1.Ａ社の取り扱い　法人税法２２条２項の適用により9,000万円の受贈益が計上されますね。2.甲さんの取り扱い　相続税法９条の適用が想定され、贈与税が課税されると考えられます。3.乙さんの取り扱い　所得税法５９条1項の適用により、譲渡所得税が課税されると考えられます。　個々の取り扱いをする理由（思想）については次回以降に記載していきます。　木村裕税理士事務所