戦後史の正体/孫崎享 (読書)
週刊文春か月刊の文藝春秋の書評で、少し前に、今年話題の書籍と紹介されていたので、本屋でぱらぱらっと頁をめくった上で、読破できそうなので購入して読んでみた。 その中で特に興味深かったのが、岸信介元首相に対する著者の評価の部分である。岸信介のイメ-ジというと、東條内閣の閣僚、A級戦犯といった戦争責任にまつわる印象と、CIAからの秘密資金の授受、安保改定、昭和の妖怪、といった対米追随の強面の印象が強かったが、同著によりその印象が180度転回してしまった。 外務省の国際情報局長と防衛大学教授を歴任した著者の岸信介評は、米国からの圧力をかわしてしたたかに自主外交路線を貫こうとする戦後最高レベルの政治家としてである。 著者は米国の虎の尾を二つ挙げていて、米軍基地の整理縮小要求と米国抜きの中国接近がそれだと指摘している。これを踏みつけると政治的に失脚する可能性が非常に高くなることを誰もが認識している中で、これを自己の信念に基づいて踏みつけたのが岸信介元首相だった。 『「政治というのは、いかに動機がよくても結果が悪ければダメだと思うんだ。場合によっては動機が悪くても結果が良ければいいんだと思う。これが政治の本質じゃないかと思うんです」(岸信介証言録)』「CIAから巨額の資金援助を受けながら、安保改定に執念を燃やした岸の、これが偽りのない本音だったのかもしれません。」 上記は、同著からの一部抜粋だが、理屈で戦後史を学べる歴史書だと思う。