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カテゴリ:本・まんが
我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。
(双葉社HPより) 読みやすい文体ということもあり、一気に読めました。 周りがみんな「馬鹿」に見えて仕方がない、「自分は特別」という根拠なき自信・驕り、コンプレックス…。 思春期にはありがちな心の在り方の一つと言えるかもしれませんが、読んでいる立場からすれば、それこそそう思っている全員が「馬鹿」にしか見えません。 他人の生命より自分のプライドが大切、という「倫理観の欠如」、殺人を犯せることが自分の優位性を表せると考える歪んだ思考。 全く大人に成りきれない子供の考え方でしかないのに、自分の優秀さに疑いを持つことも出来ない「失敗作」。 でも、その「失敗作」を作ったのは誰か?親や周りの大人なのは間違いないのでしょうけれど、やはり、そのことで免罪はできないと感じました。 「あなたの気持ちは母親だけにしか向いていないのに、被害を被るのはいつも、母親以外の人物です。」 こう思って森口先生が復讐する気持ちは、彼女の立場からすればそうせざるを得なかったというのは…理解できると言ってしまうことに抵抗はありますが、その気持ちは了承しましたとは言えましょう。 確かに司法に任せてしまえば、彼らは本当の罪悪感も、本当の後悔も感じることもなく、本当の更生も出来ないでしょう。そして本当に被害者に対する心からの懺悔をすることもできないでしょう。それが出来たとしても失われた生命は戻ってこない。 でも私的制裁を下した結果、少なくとも3人の命が失われてしまった。 森口先生はそれで満足を得られなかったでしょう。 「実際、復讐を果たしても、あなたたちを憎いと思う気持ちは全く変わりませんでした。きっとあなたたちをこの手で直接、刃物でずたずたに切り裂いても、同じ結果だったと思います。すべてを水に流せるという復讐などありえないのだ、と気付きました。」 これは重要なことだと思います。 それでも、人間どこかで区切りをつけて生きなければならない。 司法がその役割を正しく果たしていくことがその手助けになるような在り方であって欲しい、と、今のところは願うしかありません。 しかし、作品の中でも、おそらく現実でも、他人の気持ちが解らない・理解しようという想像力がない人間は、自分が同じ目にあわないとそれを感じられないと言える気はします。 登場人物たちは、全員どこか歪んでいる・何かが足りない人たちばかりですが、現実でも完璧な人間などいないのです。 「馬鹿」による犯罪は増える一方のように思えますが、完璧でないながらも周囲の人々と補い合いながら、また、最低限の「倫理観」の歯止めによって、なんとか何事もないように暮らしている人は多いでしょう。 そんな危うい現代に生きているわたしたちを再確認させてくれたような作品だったと思います。 『告白』湊かなえ 告白 2007年第29回小説推理新人賞 (本作中「聖職者」により) 2008年度週刊文春ミステリーベスト10 第1位 2009年このミステリーがすごい! 第4位 2009年第6回本屋大賞 第1位 発行:2008年8月 発行所:双葉社 価格:\1470(税込) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.07.08 22:34:21
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