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蒼い森の備忘録

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2009.07.29
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カテゴリ:映画・外国

中国北部の田舎でキムチの露天商を営む母チェ・スンヒ(リュ・ヒョンヒ)と幼い息子のチャンホ(キム・パク)。夫が逮捕され、母子2人でこの地にやってきたが、未来への展望は暗い。同じ朝鮮族ということで自動車工場の技術者と心を許しあうが、男の妻とトラブルに。結局、男に裏切られたスンヒは売春容疑で留置場に入れられる。
留置場でも顔見知りの警官に、見逃す代わりに肉体関係を強要されるなど追い詰められていく。世の中に憎悪を募らせたスンヒはついに一線を踏み越えてしまう…。

産経新聞ENAK より)



救いがない、とはこういうことを言うのでしょうね。
観終わったあと、ド~ンと気持ちが落ち込みました。


後ろ盾が全くない女は搾取され続けるしかない、という現実。
それを受け入れるしかないない、という現実。
それでもそういった様々な理不尽を呑み込んで呑み込んで生きてきたのは、守るべき息子の存在があったから。


出演者はほぼ素人さんや無名の俳優さんばかりのようです(スンヒ役のリュ・ヒョンヒさんは、どこかの大学の教授かなにかだったと思います)。
人物の顔がアップになることはほとんどなく、自らの心情を台詞で表現することもありません。
カメラは固定されており、登場人物はその前を通り過ぎていくだけ。人物を追いかけることは、たった一回の例外を除いてはありません。
それがなんというか、「どうしようもなさ感」みたいなものを痛いほど感じさせます。誰にも気にしてもらえていない存在を表しているような、とでも言ったらいいのでしょうか。


男は自分を利用するだけ。
女とは、長屋の隣に住む娼婦たちと心を通い合わせられそうだったのに、彼女たちの逮捕によって繋がりは断ち切られてしまう。
親切にしてくれた婦警さんとは、たった一度同じ時間を過ごしただけ。
本当に孤独です。
哀しい時、辛い時、怒りが込み上げる時、大声で泣き喚く相手もいないその孤独。
そんな時スンヒがどんな表情をしているのかもカメラは写しません。
どんどん負の感情が滓のように積み重なっていく。息が詰まるような感じです。


何か歯車が狂って行く感じ。
貧しい生活の中でもきっちりアイロン掛けをするスンヒ。生活を投げ出しているわけではないんです。
息子のチャンホ(キム・パク)は元気で明るく、お母さんの手助けもする優しい子に育ってる。
そんな息子のために苦しい生活のなかでもテレビを買ってあげる。
隣家の娼婦たちに対しても排除する気持ちはなくて、仲良くやっていた。
婦警さんの半分社交辞令の言葉もまともに受け取ってしまう生真面目さ。
朝鮮族としての誇りもあり、息子にもハングルを勉強させていたのに、理不尽な目に会い続けるうちに「もう勉強しなくていい」といい始める。
一所懸命生きているのに悪い方へ悪い方へと流されていってしまう。
その流れに抗うだけの力はない。無力感…。


全く何にもない田舎の風景が寂寥感を増幅させます。
音楽を一切使用していないのも緊張感を高めます。


たった一人、心の支えだった息子の身に起こった出来事に直面した時から、スンヒは静かに静かに壊れていきます。
本当に静かに…。


重い映画ですけれど、ちょっと心に引っかかって忘れられない作品です。




『キムチを売る女』2005年(韓国/中国)
監督・脚本:チャン・リュル
出演:リュ・ヨンヒ、キム・パク、ジュ・グァンヒョン、ワン・トンフィ、他

2005年第58回カンヌ国際映画祭 批評家週間ACID賞受賞
他、受賞多数





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Last updated  2009.07.29 17:56:13
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