<『円安が日本を滅ぼす』(復刻)>
日本の半導体が世界の半分も賄う時代があったけど・・・
今では見る影もない有り様で、自働車産業の未来にも怪しい雲行きが漂っています。
ここで気を引き締める意味で、以下のとおり復刻してみます。
***********************************************************
図書館に予約していた『円安が日本を滅ぼす』という本を、待つこと3ヶ月ほどでゲットしたのです。
日銀黒田総裁がかたくなに「円安誘導」しているような理屈が分からないので、この本をチョイスしたのです。
【円安が日本を滅ぼす】
野口悠紀雄著、中央公論新社、2022年刊
<「BOOK」データベース>より
日本は成長がストップし、さまざまな国に抜かれた。これを食い止めなければ、約50年間続いた先進国時代は終わってしまう。国が行うべきは、変化を阻害している諸要因を除去することだ。日本を衰退させた基本的原因は、中国工業化への対処の誤りだ。本来は、技術革新で中国製品と差別化を図るべきだった。しかし、日本は、中国との価格競争で苦境に陥った産業を救済するため、賃金を抑え、かつ為替レートを円安に誘導した。そのために、古い産業が残り、技術革新が停滞して、経済全体が衰退したのだ。
<読む前の大使寸評>
日銀黒田総裁がかたくなに「円安誘導」しているような理屈が分からないので、この本をチョイスしたのです。
<図書館予約:(2/07予約、副本1、予約30)>
rakuten円安が日本を滅ぼす |
第7章で自動車産業の将来を、見てみましょう。
p196~198
<4 日本の自動車産業の優位性は、今後も維持できるか?>
■エレクトロニクスでの水平分業化
IT革命以降、エレクトロニクス産業では、組み立てにはそれほど高度の技術を必要としなくなった。部品の製造は重要だが、それらを組み立てれば容易に製品ができるようになった。
擦り合わの相対的重要度が低下すると、日本の国際競争力は低下する。このため、新興国の工業化に伴って、エレクトロニクス産業の主力は、新興国、とくに中国に移った。
この結果、生産の方式が変わった。1980年代までの製造業では、一つの企業または企業グループで部品生産から組み立てまでを行う「垂直統合」が中心的な生産方式だったが、90年代になると、「水平分業化」が進展した。これは、世界中のさまざまな企業で部品の生産を行い、市場を経由してそれらを統合する方式である。
PCの場合、90年代まで、日本国内では国産機がほとんどだった。中でも、NEC9801が「国民機」と言われたほど高いシェアを獲得した。しかし、水平分業化が進むと、NECも含めて日本メーカーの優位性は消滅してしまった。
それまで垂直統合でPCを生産していたアップルは、iPodの清算から水平分業に転換し、新興国の企業を活用して低コストで生産を行い、高い利益を実現するようになった。日本はこのような流れに追いつくことができなかった。そして、日本型の垂直統合モデルが、水平分業への移行によって敗退した。90年代のPCだけではない。その後のEMSやファウンドリの発展で、さらに大きな変化が起きている。液晶パネルの生産で垂直統合を標榜したシャープが、世界最大のEMS企業〇海に呑み込まれたのは、象徴的な事件だった。
■自動車では水平分業化が進まなかった
ところが、自動車産業においては、日本の強さが継続した。それは、エレクトロニクス産業とは違って、組み立てが簡単ではないからである。
これは、内燃機関を用いる自動車が、機械的に複雑な製品だからだ。とくに変速機は極めて複雑な部品だ。ハイブリッド車に至っては、動力系統が二つあるので、さらに複雑になる。エレクトロニクス産業のように、部品を集めれば簡単に最終製品ができるというものではない。
しかし、こうした技術体系が将来も続くかどうかは、わからない。
■EVになれば、自働車も垂直統合から水平分業に
EVの技術体系は、ガソリン車のそれとは大きく異なるものになる。
エンジンがいらないので、金型や鋳造や、工作機械の多くが不要となる。トランスミッションというメカニカルに極めて複雑な装置がいらなくなる。こうして、これまで自動車メーカーが蓄積してきた技術体系が有効性を失う。
その半面で、バッテリーなどの部品で高度な技術が要求される。ただし、それらを組み立てるのは難しくない。「擦り合わせ」はあまり重要な意味を持たなくなる。
そうなると、自働車産業も水平分業化する可能性がある。つまり、PCと同じ事態が自動車産業にも起きる可能性が強い。
自動車産業は、経済全体に与える影響が大きい。ガソリン車からEVへの大転換が起きれば、日本経済は大きな打撃を受けるだろう。PCや家電製品で起きたことが再現されるわけだ。
さらに自動運転への移行がある。このような変化を考えると、日本の自動車産業が今後も現在のような優位を保つことができるかどうかは疑問だ。日本が生き残っていくためには、新しい技術に支えられた新しい産業を作り出していく必要がある。
■自動運転への移行
自動車は、EVへの移行以外にも、さまざまな変化にさらされる。一つはAIによる自動運転だ。ここで重要なのは、最先端の情報技術だ。これは、日本企業が不得手な分野である。もう一つは、シェアリングエコノミーの進展によって、自動車の使い方が大きく変化することだ。それに適したハードウェアはどのようなものになるかが、追及されなければならない。
このような変化に対応するには、社内の技術人材の構成を変えていく必要がある。これまで日本の自動車会社で中心だったのは、機械工学のエンジニアだった。それらの人々は、現在でも自動車会社の意思決定に重要な影響力を持っている。ところが、右に述べたような変化を実現するには、他の専門分野の専門家が中心人材になる必要がある。
|
『円安が日本を滅ぼす』3:自動車産業の将来
『円安が日本を滅ぼす』2:半導体に対する補助金(続き)
『円安が日本を滅ぼす』1:半導体に対する補助金