図書館で『漢字と日本語』という新書を、手にしたのです。
漢字といえば、東アジアの共通言語でもあるわけで・・・私のツボとなっております。
【漢字と日本語】
高島俊男著、講談社、2016年刊
<「BOOK」データベース>より
【目次】1 「漢語」のはなしから/2 やさしいことばはむずかしい/3 「空巣」「人脈」など/4 中国の「ドーダ」/5 日本語と国語/6 『かながきろんご』/7 江戸のタバコ禁令
<読む前の大使寸評>
漢字といえば、東アジアの共通言語でもあるわけで・・・私のツボとなっております。
rakuten漢字と日本語
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『Ⅳ 中国の「ドーダ」』が語られているので、見てみましょう。
著者は漢字が好きだが中華帝国嫌いなところが、ええでぇ♪
p141~145
<中国の「ドーダ」>
東京大田区の後藤延一さんが、NHKテレビ番組「中国文明の謎」三巻のDVDを送ってくださった。第一回は「中華の源流・夏王朝は実在した」、二は「漢字誕生」、三は「始皇帝中華帝国」である。
つけたお手紙に「中国のドーダですね」とある。「ドーダ」は東海林さだおさんの名言である。
早速見ました。後藤さんの言の通りである。第一回は、「おれはこんなに古いんだぞ、ドーダ」、二は「おれはこんなに賢いんだぞ、ドーダ」、三は「おれはこんなに偉いんだぞ、ドーダ」といったところか。
何も知らぬ一人の日本人が北京あたりの骨董屋に迷いこんでそこの親父の説教を聞く、という仕立てである。その親父が「ドーダ」をやるわけだ。
後藤さんが、NHK取材班『中華文明の誕生』(講談社)のコピーをつけてくださっている。これは面白かった。以下に引きます。とびとびです。
〈この20年、中国の考古学界は、まさに発掘ラッシュの様相を示し、歴史を変える新発見が相次いでいる。〉
〈中国政府が古代文明を探索する国家プロジェクトを立ち上げ、本格的に考古学に力を注ぎはじめたからである。〉
〈当時の江沢民国家主席がエジプトを訪問した時のことである。・・・それぞれの文明の発祥の古さが話題に上がった。エジプト文明では、紀元前3000年頃には最初の王朝が存在したことが考古学によって確認されている。ところが中国文明では、確認された最古の王朝は紀元前1600年頃に成立したとされる殷王朝だった。エジプトよりも1400年新しい。このことを意識した国家主席が、帰国後、「中国文明の歴史をエジプトよりも古くせよ」と、号令を下したというのである。〉
〈考古学の発掘にも潤沢な資金が注入され、全土で本格的な発掘作業が進みはじめたのだ。〉
ここ掘れワンワンである。もっともここ掘れワンワンは掘る場所の指定だが、こちらは掘り出すものの指定である。仰せの通り首尾よく「夏王朝は実在した」を掘り出しました、というわけだ。
学問にもいろいろあるが、歴史学は最もアブナイ学問である。学者のまじめな勉強が権力の足元を掘りかねない。だから国家は手綱を離さない。中国の歴史学は中国共産党の侍女である。
と言うと中国の歴史学をバカにする人があるかもしれないが、日本だってつい先ごろまで、歴史学は天皇制の飼犬だった。天照大神だの神武天皇だのという神聖不可侵のシロモノがあって、無条件にあがめたてまつらねばならなかった。わたしなどはまずそれから教えられたクチだ。
中国の歴史学は天照や神武のいる歴史学である。誰が天照かは時によって変わるが・・・。
1949年建国後の、歴史学者が語る歴史はだいたいこうだった。・・・人類の歴史は階級闘争の歴史である。当然中国の歴史もそうである。数千年の昔から中国の労働人民は、悪逆非道の支配階級に抗し、幾百度も立ち上がって果敢な闘争を挑んできた。20世紀にいたって労働人民の前衛中国共産党が現れ、その正しい指導にみちびかれて労働人民はみずからを解放し、社会主義中国の主人公になった・・・。まあ労働人民が天照、共産党が神武、ということになりますかね。これだとそう地面をほることもなかった。
中国の「ドーダ」が顕著になってきたのはわりあい最近である。
1976年に毛沢東が死んで、どこかにかくれていた鄧小平が二度めの復活をして、2年ほどのあいだに最高実力者になって、どえらいことをやった。階級闘争路線を放棄し、国の進路を百八十度転換して、「改革開放」(市場経済)を始めた。70年代末の段階で、社会主義を見限ったわけだ。
あとで考えれば、それは明らかに正しい選択だった。その後80年代以降ひ、ソ連も東欧もみんなつぶれたのだから・・・。しかし、牛が牛であることをやめるみたいなものだから、その手があるとはだれも気づかなかった。鄧小平の聡明と貫禄をもって初めてやれたことだ。
それ以後、特に90年代初めの鄧小平の南巡講話以後、中国の経済はめざましく伸び、アメリカにつぐ規模を有するに至った。これが「ドーダ」の裏づけになっている。むやみに「中華民族」と唱え始めたのもこのころからである。
「中華民族」という言葉は1920年ごろに孫文が発明したと言われている。便利な言葉である。多くの場合、漢人(漢族。チャイニーズ)の自誇称である。日本人が「天孫民族」と称して威張ったみたいなものだ。しかし場合によっては(公式には)支配下の多数の(中国政府によれば55の)種族をも含む、ことになっている。
ウイグル人やチベット人に「お前たちも中華民族だよ」と言ってやるわけだ。本気で言っているわけじゃない。ウイグル人やチベット人も本気で受け取って喜ぶわけじゃない。
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