「えーっとですね・・夕食が終わった後、カエサルがわたしに、あなた様のことをどう思ってるかと聞かれたから、友人と思ってると答えたんです、そしたら・・」
「回りくどい説明はいい。簡潔に話せ。」
「カエサルはわたしが司祭になってルドルフ様にお仕えすると彼に話したら、彼は“醜い本心を隠して皇太子様に近づいて、いずれは権力を握ろうと思っているんだろう”と言って、わたしを浴室に閉じ込めたんです。」
「そうか・・あいつがそんなことをね・・」
ルドルフはそう言って紅茶を飲んだ。
「それにしても、カエサルは最近変だな。以前はお前にはそんなことを言うような奴じゃなかったんだろ?」
「ええ・・イートンに入学して慣れない環境にいるわたしに、彼は優しく声を掛けてくれましたし、何かと助けてくれました。」
イートンに入学したての頃、寮で同室だったカエサルは、何かとユリウスに親切にしてくれた。
それなのに今の彼は、ユリウスに対して少しよそよそしくなり、ユリウスが話しかけても冷淡な態度を取ることが多くなってきた。
「わたしが何か彼に悪いことでも言ったんでしょうか?」
「それもあるかもしれないな。お前は知らぬ間に人を傷つけることがあるからな。親切心で言ったことでも、相手を傷つけることがあるからな。」
ルドルフはそう言ってクッキーを摘まんだ。
「カエサルが今、わたしのことをどう思っているのかはわかりませんが・・わたしは彼のことを大切な友人だと思っています。」
ユリウスはカップを握り締めながら震える声で言った。
「たとえ彼がわたしのことをどんなに憎んでいても、彼にどんなに嫌われても、わたしは彼のことを友人だと思っています。」
「もう遅い、部屋に帰れ。」
「わかりました。では、失礼いたします。」
ユリウスはルドルフに頭を下げて彼の部屋を出て行った。
「ユリウス、ランプを持っていけ。」
「ありがとうございます。」
ユリウスはランプを持ち、漆黒の闇が包む廊下を歩き出した。
(カエサルは、わたしのことをどう思っているんだろう?もう彼はわたしのことを友達じゃないと思っているんだろうか?だからあんなことを・・)
脳裏に、ユリウスの言葉が木霊する。
“君はいつも嘘を吐くのが上手いね、ユリウス。君は聖職者なんかよりも間諜の方が向いているんじゃないかい?醜い本心を隠して皇太子様に近づいて、いずれは権力を握ろうと思っているんだろう、君は?”
そんなこと、ちっとも思ってやしないのに、カエサルは何故あんなことを言ったのだろうか?
(カエサル、君は何故、あんなことを言ったの・・?)
ユリウスは溜息を吐き、窓の外を見た。
空には美しい無数の星が輝いていた。
ここで過ごす休暇はあと1日しかない。
明日はカエサルと話をしよう。
ちゃんと話し合えば、彼も自分のことをわかってくれるだろう。
そう思ったユリウスは、ベッドに入ってゆっくりと眠りに就いた。
翌朝、ユリウスは中庭へカエサルを呼び出した。
「話って何だい?」
カエサルはそう言って射るようにユリウスを見た。
「ねぇ、昨日のことだけど・・君が何と思おうと僕は君のことを大切な友達だと思ってるよ。ただ知りたいんだ、どうして君があんなこと言ったのかって・・」
ユリウスの言葉を黙って聞いていたカエサルは、口端を歪めて突然笑い始めた。
「どうしてあんなこと言ったって?決まってるじゃないか、君が憎いからさ!」
カエサルはキッとユリウスを睨みながら言った。
「いつも君は天使のような笑顔を浮かべながら、みんなを騙してる・・先生も、友達も、街の人みんな!いかにも自分は善人だって顔して、裏で他人を見下して!そんな姿の君を見てると、虫酸が走ったよ!」
「カエサル・・何言って・・」
ユリウスはカエサルを呆然と見つめた。
「君はさっき、僕のことを大切な友達だと言ったよね?僕はね、君のことをとても恐ろしい敵だと思ってるよ!あの日、イートンで出会った時からずっと!」
「そんな・・嘘だ・・」
カエサルは涙を流すユリウスを見て勝ち誇った笑みを浮かべて、中庭を去った。
「嘘だ、そんなの・・」
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