アレクとシンが結婚して数週間が経った。
男と知りながらもアレクはシンのことを心から愛し、シンも彼の想いに応えながらも、いつ彼を殺そうかと企んでいた。
だがアレクと親しくすればするほど、彼に愛されれば愛されるほどに、シンは彼を殺せなくなっている自分に気づいた。
彼は自分の故郷を破壊し、家族を殺した憎い仇なのだ。
それなのに、何故。
もやもやとした気持ちを抱えながら、シンはアレクとともに朝食の席へと向かった。
「舞踏会、ですか?」
スープを飲んでいたシンは、そう言ってシェーラを見た。
「そうだ。お前達の披露宴も兼ねてな。」
シェーラは孫の嫁に微笑みながら、バゲットを一口大にちぎった。
「父上、申し訳ありませんがわたしは欠席させていただきます。」
リシムはぶすっとした表情を浮かべながら、そう言なり椅子から立ち上がり、ダイニングから出ていった。
「お義父様、入ってもよろしいでしょうか?」
シンはリシムの部屋のドアをノックしながら、彼の返事を待った。
「入れ。」
「失礼いたします。」
シンが部屋に入ると、リシムは彼に背を向けて窓の外を眺めていた。
「お義父様、先ほどはどうされたのですか?どこかご気分でも・・」
「わたしに構うな。」
リシムはそう言ってきっとシンを睨んだ。
「わたしはそなたのことが嫌いだ。父上に気に入られているからといっていい気になるな。」
彼はシンを押し退けると部屋から出て行った。
「どうしたの?父上に何か言われた?」
溜息を吐きながらシンが廊下を歩いていると、アレクが優しく彼に声をかけてきた。
「なんでもないわ。それよりも、あなたのおじい様はわたくしのことをどう思っていらっしゃるのかしら?」
「気に入っていると思うよ、君のこと。」
アレクはそう言うと、シンの手を優しく握った。
「行こう。みんなが待ってるよ。」
「ええ。」
アレクとシンが仲良く連れたって園遊会場である中庭へと向かうと、皆の憧れの的であったアレクの隣に立つシンを恨めしそうに見つめる貴族の令嬢達の姿がそこにあった。
「緊張しなくてもいいよ。僕がついているから。」
「そうね。でもこういう場所には余り慣れていなくて・・」
そう言ってシンがアレクの手を握ろうとした時、背後から髪を掴まれて突然地面に引き倒された。
「わたくしの首飾りを返しなさい、この泥棒猫!」
悲鳴を上げながらシンが立ち上がろうとすると、彼は再び地面に引き倒され、頬を張られた。
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