「あ~、うめぇ! おいらこんなに腹一杯食ったのは生まれて初めてだ!」
エリスが元神官・リーシャの娘、ソラを引き取ったその日の夜、彼女はそう叫びながら夕食に出された仔牛のフィレ肉のステーキにかぶりついた。
「なんて下品な食べ方なんでしょう。貧乏人はこれだから。」
ソラと向かい合わせに座っていたセシャンの母親がそう言って顔を顰めた。
「お義母様、この子は今にも飢え死にしそうだったんですよ。」
エリスはそう言ってすかさずソラを庇った。
「エリスさん、本気なの?この子を引き取るだなんて。」
「わたしは少しでも不幸な子ども達を減らしたいんです。」
「それは元神官であるあなたの慈悲の心から来るものかしら?」
「母上、おやめください。このような場で言い争わないでください。」
セシャンはそう言って妻と母との間に割って入った。
「セシャン、エリスさんには慈善活動をやめるように言って頂戴ね。」
セシャンの母親は不機嫌な表情を浮かべると、ダイニングから出て行った。
「母を許してやってくれ。」
「いいんです。さぁみんな、食べましょう。」
エリスはそう言うと、心配そうな顔をしている子ども達に微笑んだ。
その夜、ソラとエリスはダイニングで話をしていた。
「ねぇ、おいらの所為であなたがあの怖い婆さんに怒られたの?」
「気にしなくていいのよ。」
エリスはそう言うと、ソラを優しく抱き締めた。
ソラがエリスに引き取られてから数日が経ち、マリの誕生パーティーが開かれた。
「おいら、この服本当に貰ってもいいのか?」
ソラはそう言いながら、生まれて初めて袖を通したドレスの布地を摘んだ。
「いいのよ。あなたはもうわたし達の可愛い娘なんだから。」
ソラと共にパーティーが行われている中庭へと向かうと、そこには大勢の貴族達が集まり、笑いさざめき合っていた。
「母さん、見て。父さんが犬をくれたんだ。」
マリがそう言って腕に抱いている子犬をエリスとソラに見せた。
「まぁ、よかったわねぇ。じゃぁ、母さんは父さんと話してくるわね。」
エリスがセシャンの元へと行ってしまうのを確認したマリは、じろりとソラを睨んだ。
「お前、いいよなぁ。おいらの母ちゃんなんてこんなパーティーしてくれねぇもん。」
「ソラ、言っとくけどこの犬は僕のものだからな。」
「わかってるって。」
ソラとマリがそう言い合いながら中庭を歩いていると、エリスが誰かと向こうで言い争っているのが見えた。
「ちょっと行ってみようぜ。」
「ああ。」
一方、エリスはかつての恋敵であったベリンダと対峙していた。
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