「やぁ。」
エリスが退院したその日の夜、ユリシスはあの病院にいた。
「あらぁ、来てくれたのねぇ。」
占い師は大きな体を揺らしながら、彼に微笑んだ。
「エリスの旦那に、あの魔水を渡したかい?」
「ああ。」
「そうか。エリスは今頃狂喜乱舞していることだろうよ。」
ユリシスはそう言って口端を歪めて笑った。
「あんた、あのエリスとかいう人妻に惚れてんのかい?」
占い師はじっと蒼い瞳でユリシスを見た。
「惚れてるというよりも、興味を持っていると言った方が正しいかな。彼女はあのレイラの片割れだからね。」
「レイラ? レイラってあんたが殺した・・」
「口に気をつけるんだね。あの女はわたしが殺したんじゃない。」
ユリシスはじろりと占い師を睨むと、ローブの懐から小袋を取り出し、彼女の前に置いた。、
「はい、これはご褒美だよ。」
占い師は小袋の中を確かめると、にやりと笑ってそれをバッグの中にしまった。
「これからどうするつもりだい?」
「さぁね。」
ユリシスはローブの裾を翻すと、占い師の部屋から出て行った。
一方、ラズミル伯爵邸では、エリスの退院を祝ってささやかなパーティーが開かれた。
「エリスさん、退院おめでとう。元気になってよかったわね。」
姑はそう言ってエリスに微笑みながら、葡萄酒をなみなみとグラスに注いだ。
「お義母様、飲み過ぎですよ。」
「いいじゃないの、今夜はお祝いなんだから。」
姑の肩に、何かが動いていることに、エリスは気づいた。
(何だろう?)
エリスはじっとそれを見ると、それは血のような真紅のとかげだった。
「エリスさん、どうしたの?」
「い、いえ・・」
ダイニングを出て、寝室へとひきあげたエリスは、深く溜息を吐くとベッドの端に腰かけた。
(あのとかげは、一体何だったんだろう?)
エリスは姉の形見であるネックレスを弄りながら、溜息を吐いてベッドに寝転がった。
セシャンは寝苦しさを感じ、目を開けた。
「エリス・・」
「お前が殺した! お前が!」
セシャンの首を左手で絞めあげると、もう片方の手でガウンのポケットから短剣を取り出した。
「やめろ、エリス!」
「死ねぇ!」
白いシーツの上に、鮮血が飛び散った。
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