「余所者はこの街から出て行け!」
「疫病神!」
「お前なんか死ねばいい!」
四方八方から罵声を浴びせられたエリスは、顔を上げることができなかった。
「奥様、大丈夫ですか?」
侍女のアネットがそう言ってエリスに駆け寄ってきた。
「大丈夫。」
「ここを一旦離れた方がよろしいですわ。奥様、立てますか?」
「ええ。」
アネットの手を借りてなんとか立ち上がったエリスは、伏し目がちに彼女とともにそこから離れた。
「酷い事をされましたね、奥様。」
街の一角にある喫茶店で、アネットは紅茶をひと口飲んだ後、そう言ってエリスを見た。
「街の人達はわたしのことを快く思っていないでしょうね、きっと。」
「さっきのことは気になさらないで下さい、奥様。」
アネットはエリスの手をそっと自分のそれに重ねた。
「アネット、ありがとう。」
「奥様、気を落としてはなりません。奥様は、正しい事をなさったのですから。」
そう言ったアネットの瞳は、きらきらと輝いていた。
「あなたがいると、心が安らぐわ。」
「まぁ、奥様ったら。」
アネットが照れ臭そうに笑いながら、エリスと共に通りの向こう側を渡ろうとした時だった。
道路の向こう側から、1台の馬車が勢いよく彼女達の元へと走って来た。
だが、2人は馬車には全く気づかなかった。
馬のいななきでエリスは初めて、馬車が目の前に迫っていることに気づいた。
その場から逃げようとしたが、足が竦んで動けなかった。
「奥様!」
アネットの悲鳴が、街に響いた。
エリスがそっと目を開けると、そこには金髪翠眼の青年が立っていた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい・・」
エリスは立ち上がろうとしたが、足首に激痛が走った。
「少し捻ってしまわれたようですね。我が家で手当て致しましょう。」
エリスはアネットを呼び寄せた。
「セシャンに、S公爵邸に行って遅くなると伝えて。必ずよ。」
「わかりました、奥様。」
アネットは少し不安そうな顔をしていたが、やがてエリスに背を向け、別荘へと帰っていった。
「助けてくださって、ありがとう。」
エリスはそう言って青年に微笑むと、彼もエリスに微笑み返した。
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