「どうして、死んだ筈じゃ・・」
リュシスが唖然とした様子でエリスを見つめていると、彼女がゆっくりと椅子から立ち上がった。
「エリス・・」
セシャンの言葉を聞いたエリスは彼ににっこりと笑うと、リュシスにゆっくりと近づいた。
「エリス様・・」
エリスはリュシスに抱きついた。
「エリス?」
エリスの白い腕がリュシスの背中越しに見えた。
「な・・」
リュシスは今何が起きているのか、未だ把握できずにいた。
だが、自分の腹部に開いた穴を見て、彼は己の死を悟った。
エリスはリュシスの腹から腕を引き抜くと、冷たく彼を見下ろした。
「エリス・・?」
妻の様子がおかしいことに、セシャンは漸く気づいた。
「セ・・シャン・・?」
エリスはゆっくりとセシャンを見た。
「エリス、一体どうし・・」
セシャンがエリスの方へと駆け寄ろうとした時、轟音が全てを揺さぶった。
「な、なんだ・・」
セシャンが目を瞬せながら呆然としていると、エリスは誰かの方へと向かっていた。
「やっと覚醒(めざ)めたね。」
ユリシスはそう言うと、エリスを抱き締めた。
「一体、どうなっているんだ?」
「それは今から死ぬ人間が知らなくていいことさ。」
ユリシスは腰に帯びた剣を抜くと、セシャンに突進した。
エリスはただ、2人の戦いを眺めていた。
いつもセシャンに向けられていたあの優しい光は、彼女の瞳から消え失せていた。
(この人は誰?)
ユリシスと戦っている最中、自分の名を何度も呼ぶ男が、誰なのかわからない。
名前すらも、思い出せない。
エリスの前に、ユリシスの剣が突き刺さった。
彼女はそれを床から抜くと、ためいらいなくセシャンの背に突き刺した。
彼女の白い顔が、セシャンの返り血を浴びて緋に染まった。
「エリス・・何故・・?」
セシャンは床に崩れ落ちながら、血に飢えた化け物となってしまった妻を見た。
「もう行くよ、エリス。」
差し出されたユリシスの手を、エリスは彼に微笑みながら握った。
最愛の男を、見もせずに。
一方、リシャムに侵攻した南部軍は、アルディン帝国軍を次々と蹴散らしていた。
そんな中、宮殿の中では女達が自決しようとしていた。
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