少年兵には両性具有の恋人がおり、先日その恋人が破水したという電報が届いたという。
「俺としては、あいつの傍にいて出産に立ち会いたいんですが、上の者はそんな事許してくれる筈がありません。」
「そうですか。ではわたしが上の者と掛け合ってみましょう。」
エリスは不安がる少年兵の肩を叩くと、天幕から出いった。
洋燈を持って彼女が上層部の者達の元へと向かうと彼らは酒宴の真っ最中だった。
「少し外でお話しをしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、わかった。」
南部軍のリーダーは、そう言うと天幕から出た。
エリスは彼に、少年兵の事情を説明した上で彼に休暇を与えるように言うと、リーダーは渋々それを承知した。
「戦いの中でも新しい命は生まれる。あいつは今まで俺達の為に戦ってきてくれていたから、もう解放してやってもいいだろう。」
「彼に伝えます。」
リーダーに頭を下げると、エリスは少年兵が待つ天幕へと向かった。
「あなたは暇を与えられました。」
エリスの言葉に、少年兵は顔を輝かせた。
「リーダー、いいんですか? 貴重な戦力を・・」
「彼には生き甲斐ができたんだ。我々には、失うものが何もないから戦えるんだ。」
リシャムを制圧した南部軍は、北方へと進軍した。
その中には、エリスもいた。
「エリス様、足元にお気をつけて下さい。」
「ええ。」
南部軍は人目につかぬよう、山越えをしていた。
エリスが泥濘に足を取られぬように山道を歩いていると、どこからか悲鳴が聞こえた。
「どうかなさいましたか、エリス様?」
「あの、悲鳴が・・」
「悲鳴ですか? 聞こえませんけど・・」
かなり大きな悲鳴だったので辺りに良く聞こえていた筈だが、エリス以外誰も悲鳴を聞いていないようだ。
(一体あの悲鳴は・・)
エリスが再び歩き始めた時、また悲鳴が聞こえた。
エリスはふと、森の中に何かが潜んでいることに気づいた。
“それ”は、森の中からじっとエリスを見ていた。
(なんだろう、あそこに潜んでいるものは?)
エリスが森の中へと入ろうとした時、羽音とともに“それ”が森の中から飛び出てきた。
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