客間に入ると、布団に寝かされた総美がゆっくりと布団を起き上がった。
「土方様、来て下さったのですね。」
総美は嬉しそうにそう言うと、土方に抱きついた。
「馬鹿野郎、俺に会う為に肺炎になりかけやがって・・お前ぇって女は本当に大馬鹿野郎だ!」
土方はそう口では罵ったが、総美が無事だと知り、内心ホッとしていた。
「心配してくださったんですね、嬉しい・・」
熱に浮かされながらも、総美は彼から離れようとはしなかった。
「土方様。」
「なんだ?」
やっと自分から離れた総美に、土方は顰めっ面を向けた。
「わたくしを、あなた様の妻にしてくださいませ。」
「・・てめぇ、まだそんな事言ってやがるのか。俺ぁ・・」
「トシ、総美さんはあなた以外の人と結婚したくないから、雨の中日野までは走ってきたのよ! あんたにはまだ彼女の気持ちが解らないの!」
信子はそう言って、弟の肩を思い切り叩いた。
「いってぇな。姉貴に言われなくても、こいつを貰ってやるつもりだったんだよ。」
「それを早くおっしゃいよ!」
「姉貴、痛いっつってんだろ!」
信子と土方の会話を聞きながら、総美はくすくすと笑った。
「何笑っていやがる、総!」
「御免なさい。土方様、本当にわたくしを妻にしてくださるの?」
「男に二言はねぇ。お前ぇを他の男に奪われる前に、俺のもんにする。それが、お前の望みなんだろう?」
土方の問いに答える代わりに、総美は彼に微笑んだ。
数ヵ月後、彼女は白無垢を纏い、土方と華燭の典を挙げた。
「おめでとう、総美。土方様とお幸せにね。」
「ありがとう、みつ姉様。」
周囲から祝福されながらも、総美は照れ臭そうに笑った。
ちらりと隣に座っている土方を見ると、彼は少し頬を赤く染めながら彼女の手を握っていた。
土方が22、総美が17の秋の事だった。
宴会を終え、総美は白無垢から白羽二重の襦袢に着替える為、佐藤家の女中と新婚夫婦が初夜を過ごす部屋へと向かった。
「本日はおめでとうございます。」
「ありがとう。」
化粧を落とし、艶やかな黒髪を下ろした総美は、鏡の前で笑顔を浮かべた。
「お嬢様、土方様がお見えになられました。」
女中の声がして総美が顔を上げると、そこには白い長襦袢を着て長い髪を下ろした土方が欲望を滾らせた瞳で自分を見つめていた。
「あの・・」
「大丈夫だ、痛くはしねぇよ。」
土方は総美の腰を掴んで自分の方へと引き寄せると、褥の上に彼女を転がし、襦袢を剥ぎ取った。
形の良い彼女の乳首を吸うと、彼女は白い喉をひきつらせながら喘いだ。
「もうビショビショじゃねぇか。そんなに俺に抱かれたかったのか?」
「ええ。土方様、早くわたくしの中に・・」
「他人行儀な呼び方を閨の中でするんじゃねぇよ。名前で呼べ。」
「と・・歳三さぁん!」
愛しい男の腕に抱かれ、その指と舌で総美は何度も極楽浄土へと意識を飛ばした。
それから土方と総美は、平穏で愛に満ちた結婚生活を送った。
しかし、仕事上の付き合いで土方が遊郭で酒を飲んだことを知る度に、総美は激しい癇癪を起こし、遂には体調を崩して入院してしまった。
つくづく嫉妬深い女だと思っていたが、これほどまでとは―土方はそう思いながらも、総美を悲しませぬようその日を境に女遊びを絶った。
「色々とおありになったんですね・・」
総美から土方との馴れ初め話を聞いた山崎は、感慨深げにそう言うと溜息を吐いた。
「わたくしはあの人が居ないと生きてゆけないの。だから山崎、しっかりあの人を見張って頂戴ね。」
総美はそう言うと、新しく入ったメイドの少女に対して静かに敵意を燃やした。
(千尋さん、あなたに土方は渡さなくてよ・・)
紫紺の瞳に、千尋への敵意の炎が宿った。
「お話とはなんでしょうか、旦那様?」
一方、朝食後に土方に書斎へと呼び出された千尋がそう言って彼を見ると、彼は突然千尋を抱き締めた。
土方夫妻の馴れ染め編はこれで終わりです。
総美がいかに土方さんを愛し、彼に執着しているのかがわかるでしょう。
次回は少し辛いお話になるかもしれません。
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