やっと拷問のような時間が終わると、アルハンは満足して部屋から出て行った。
激痛に耐えながら、聖良はゆっくりとベッドから起き上がり浴室へと向かった。
「大丈夫ですか、セーラ様。」
サリーシャがそう言って覚束ない足取りで歩く聖良を支えた。
「大丈夫。」
浴室に入り、聖良は身体を洗おうとしたが、激痛で上手く指が動かない。
「お手伝いいたします。」
サリーシャはそう言うと聖良の身体を泡で洗い始めた。
「ありがとう。」
やっと入浴を終えた聖良は、ぐったりとした様子で自室のベッドで横になった。
「陛下は一体何をお考えなのでしょう? セーラ様にこんな酷い目を遭わせて。」
サリーシャの侍女仲間の1人がそう言って溜息を吐いた。
「そうですとも。セーラ様が可哀想ですわ。こんな異郷の地で無理矢理“妻”にさせられ、毎日無理矢理あんなことをされて。」
「ええ。セーラ様は男なのに。」
自分の境遇を哀れに思っている侍女たちが口々にアルハンに対する不満をぶちまけながら、仕事をしていた。
「セーラ様、最近少しお痩せになりました。お食事だって少ししか召し上がっておりません。」
サリーシャはそう言って俯いた。
「それはそうでしょうね。」
聖良は彼女達の声を聞きながら、久しぶりにゆっくりと眠った。
「父上は居るか?」
突然凛とした声が頭上から降って来て、サリーシャ達は顔を上げた。
そこには、リシャドが立っていた。
「リシャド様、陛下なら先ほどお出かけになりましたわ。お珍しいですわね、後宮嫌いのあなた様がこちらにおいでになるなんて。」
「ああ。少しセーラ様に話があってな。彼は今何処に?」
「セーラ様は今お休みになっておられますが。」
「そうか。」
「リシャド様、少しわたくし達の話を聞いてくださいませ。」
サリーシャ達は聖良がどのような仕打ちをアルハンから受けているのかを全て話した。
「それは酷いな。父上は一体何をお考えなのだ。外国の皇太子を攫うだけでも重罪だというのに、その上そのような真似をするなんて・・」
リシャドは憤怒の表情を浮かべながら、聖良の部屋へと入っていった。
ベッドの中で聖良がすやすやと寝息を立てながら眠っていた。
その横顔は、少しやつれているように見えた。
リシャドはそっと、聖良の頬を撫でた。
「わたしがあなたを絶対にこの牢獄から救い出してみせる。」
彼はそう言った後、いままで誰も見せることのなかった笑顔を浮かべた。
「ん・・」
聖良はそっと目を開け、蒼く澄んだ瞳でリシャドを見た。
「起きたか?」
リシャドは聖良に優しく声をかけた。
「あなた、怒っている顔よりも笑顔が似合うね。」
聖良はそう言って初めて見る異国の皇子の笑顔を見た。
「そうか? ここではいつも気が抜けないからな。久しぶりに笑ったのはいつのことなのか思い出せないな。」
「そう。俺も日本に居た頃はいつも笑っていたような気がしたんだけど、もうそれも忘れかけてたかな・・」
聖良は溜息を吐いてリシャドを見た。
「そうか。」
リシャドは数奇な運命によってこの異郷の地で暮らすことになった聖良を救う為に、この国を変えようと思った。
「これからはわたしがお前を守る。」
聖良にそう言うと、リシャドは再び笑顔を浮かべた。
「ありがとう。」
柔らかな笑顔の裏には、激しい炎が燃え盛っていた。
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