「お爺ちゃん、そんなに買わなくていいのに!」
「いいだろう、ジャネットも招待するんだから!」
感謝祭(サンクス・ビギングデイ)の数日前、大型ショッピングモールでマックスはカート一杯に食料品を山積みにしながらスーパーの店内を回っていた。
「でもさぁ、こんなに食べきれないよ。」
「これから忙しくなるんだから、そん時は買ったやつを食べればいい。」
「そんな・・」
レジへと向かうマックスを呆れ顔で見たアレックスは、向こうにウォルフが立っていることに気づいた。
アレックスが彼に声を掛けようとしたとき、ウォルフの近くにブロンドの美女が駆け寄ってくるのが見えた。
「どうした、アレックス?」
「なんでもないよ。」
感謝祭の買い物で、モール内はごった返していた。
駐車場に買った荷物をトランクにアレックスが詰め込んでいると、アンジェラが赤いスポーツカーに乗ってやってくるところだった。
「ハーイ、アレックス。」
「アンジェラ、久しぶり。今日は一人?」
「ええ。今日はみんなでパーティーするのよ、あなたも来ない?」
「パーティーって、どんな?」
アレックスは少し嫌な予感がしてアンジェラにそう聞くと、彼女はにっこりと笑ってこう言った。
「それは来てからのお楽しみよ。ここで待ってるわ。」
アンジェラは一枚のメモをアレックスに渡すと、ピンヒールを鳴らしながらモールの中へと入っていった。
その頃、モール内のフードコートでコーラを飲みながら、ウォルフは従妹のミーガンと互いの近況を話していた。
「あんたもLAに来たらいいのに、ウォルフ。こんなダサい田舎町で燻(くすぶ)ってるなんて、あんたらしくないよ。」
「そりゃどうも。こんな町に居る訳は、LAで暮らせる金を貯める為にバイトをしていることと、あいつらと決着を早く着けたいこと。その2つが済んだら、あそこを出て行くさ。」
「あいつらって、タンバレイン家か。お高くとまってるKKKの連中?まだあいつら白い頭巾かぶって集会やってんの?」
「さぁな。でも昨夜家に招かれた時、黒人のヘルプにあの女が容赦なく罵声を浴びせてた。性根がとことん腐りきった野郎どもだよ、タンバレイン家は。」
ウォルフは吐き捨てるかのようにそう言うと、コーラを飲んだ。
まるで、自分に流れるタンバレイン家の血を呪うかのように。
「あ~ら、誰だと思ったら娼婦の息子じゃん。こんなところで何女を誑かしてんの?」
耳障りな声が頭上から聞こえたかと思うと、アンジェラ=カークが目の前に立っていた。
「ねぇウォルフ、さっき話してた尻軽のチアリーダーってこいつのこと?」
ミーガンはそう言うと、アンジェラに向かって中指を突き立てた。
「ああ。またパパのカードで買い物に来たのか、アンジェラ?」
「うっさいわね、とっとと失せな、このクズ!」
「失せるのはあんたの方よ、この馬鹿女(ビッチ)!」
ミーガンがアンジェラを睨みつけると、彼女は苛立ちまぎれに近くの椅子を蹴り、フードコートから去っていった。
「あいつ、とんだ臆病者(チキン)だね。あんなの相手にすることないよ。」
「するわけないだろ。ピザでも食べようか、ミーガン?」
「うん。あんたの奢りね。」
「ったく、お前ってやつはいつもそうだよな。」
たまに町に車を飛ばしてやって来て遊びに来る兄妹同然の従妹を、ウォルフはどこか憎めないでいた。
にほんブログ村