「ここだな。」
「うん。」
ラリーが言っていた“秘密のフロア”を見つけたアレックスとウォルフは、ドアを蹴破り部屋の中へと入った。
そこでは、上半身裸になったマンディ達とディーンのチームメイト達が頭を振りながらダンスをしたり、カラオケをしていたりしおり、混沌とした光景が広がっていた。
「みんな、こっち向いて~!」
「イエーイ!」
泥酔したマンディ達はアレックスにカメラを向けられていることなど気づかず、無邪気にピースサインをしたり、投げキッスをしたりしていた。
「サンキュー、みんないい夜を!」
アレックスは腹筋が壊れそうになって立てなくなりそうなのを堪えながら、部屋から出て行った。
「見たか、あいつらのアホ面!」
「見たに決まってんじゃん!あ~、笑い過ぎてお腹痛い!」
ゲラゲラと二人が笑いながら『ジャーヘッド』から出ると、ラリーが入り口の方でひらひらと手を振っていた。
「なぁ、これどうする?」
「今すぐにでもネット上に流したいけど、良い方法考えたよ!」
別にアメフトメンバーやチアリーダー達に恨みは持っていないが、傲慢な彼らを少し懲らしめた方が良い―そんな悪知恵が働いたアレックスは、ラップトップで“あるもの”を作成した。
翌朝、昨夜の馬鹿騒ぎなどすっかり忘れてしまったマンディ達は、いつものように我が物顔で廊下を歩いていると、生徒達がニヤニヤと笑いながら彼らのほうを指差していた。
「何よあれ、カンジ悪い!」
「ムカつくよねぇ!」
マンディ達がそういいながらロッカーの前でたむろしていると、突然彼らは校長室に呼び出された。
「君達、昨夜何をしたのかわかってるね?」
「何の話ですか、先生?」
「この期に及んで、まだシラを切るつもりなのか、君達は?」
校長は呆れたようにそう言うと、ラップトップの画面を見せた。
「今朝こんなものがわたしに届いたんだよ。」
そこには『ジャーヘッド』で乱痴気騒ぎの様子が映っていた。
「君達には無期限の停学処分と今シーズンの全試合の出場停止処分を命じる。」
「先生、そんな!こんなのってあんまりです!」
そう校長に抗議したのはマンディだった。
「うちの両親が毎年この高校にいくら寄付しているのかご存知でしょう?私たちを試合に出さなかったら、先生の首が飛びますよ!?」
「それでも構わないよ、我が校にこんな破廉恥なまねをする生徒が居るということ自体、学校の品位を落としかねないからね。今夜、この事について保護者会を開く。ああそうだ、君達のご両親にもこのメールを送信したから、覚悟するように。」
校長の言葉を受けたマンディ達の顔は蒼褪(あおざ)めたり赤くなったりしていた。
その夜開かれた保護者会で、マンディ達の試合出場停止処分と無期限の停学処分は決定的なものとなり、金持ちのアメフト・チアリーダーチームが居なくなった高校には束の間の平和が訪れた。
感謝祭当日、アレックスとマックスはジャネットを家に呼び、食事を楽しんだ。
「まともな食事をしたのは久しぶりだよ。殆どレンジでチンするやつばっかりだったからね。」
マックスお手製の七面鳥の詰め物を頬張りながら、ジャネットはそう言って笑顔を浮かべた。
「感謝祭じゃなくても、週末でもいいからうちに来ればいい。いつでも歓迎するぞ。」
「じゃぁ、お言葉に甘えますね。」
アレックス達が楽しい感謝祭を過ごしている一方、タンバレイン家では一連の騒動の所為で険悪なムードが流れていた。
「まったく、とんだ恥晒しもいいところだわ、ディーン!ここでもうまくやっていけると信じていたわたしが馬鹿だったわ!」
NYで散々問題を起こした挙句、逃げるようにこの町に戻ってきたタンバレイン夫人にとって、息子の不祥事は万死に値するものだった。
「二度と問題を起こさないで!もし問題を起こしたら、お前のカードを全部停止して、この家から勘当しますからね!」
「そんな・・ママ、あんまりだよ!」
「黙りなさいディーン。自分がしたことを良く考えるんだな。」
居た堪れなくなったディーンは、ディナーの最中だというのにダイニングから飛び出して自分の部屋へと向かってしまった。
「畜生・・あの娼婦の息子め、許さないぞ!」
そう呟いて鏡で自分の顔を見つめるディーンの目は、憎悪で滾っていた。
翌朝、ウォルフがいつものようにシャワーを浴びようとベッドから起き上がると、外からドアをノックする音が聞こえた。
(こんな朝早くに一体どこのどいつだ?)
ウォルフが憮然とした様子でドアを開けると、そこにはタンバレイン家の執事が立っていた。
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