「何だ、俺に何か用か?」
ウォルフがそう言ってタンバレイン家の執事・ジョージを睨みつけると、彼は穏やかな口調で話し始めた。
「旦那様が、お呼びです。」
「あいつには二度と会わないと、本人に伝えた筈だが?」
ウォルフは美しい眦(まなじり)を上げてジョージを睨んだが、彼は全く動じる様子も見せなかった。
「帰ってくれ。」
「そうは参りません。旦那様にあなたをお連れするようにと仰せつかっておりますので。」
何があってもこの老執事は、自分が“イエス”と言うまでこの場を動かないことに気づいたウォルフは舌打ちした。
「着替えてくるから、そこで待っていろ。」
「かしこまりました。」
ジョージは満面の笑顔を浮かべるのを見ると、ウォルフはドアを叩きつけるように閉めた。
(ったく、何で急に会いたいなんて・・あいつはボケ始めているのか?)
数分後、タンバレイン邸へと向かうリムジンの中で、仏頂面を浮かべたウォルフはスマートフォンでアレックスにメールを送った。
「まもなく着きますので。」
「そうか。」
嫌なことは早く済ませて、さっさとドーナツ店で死ぬまで働いて、LAでの生活費を稼がないと―ウォルフがそう思っていると、スマートフォンがメールの着信を告げた。
「どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない。」
「さようでございますか。」
ウォルフがジョージに伴われてリビングへと行くと、そこにはミスター=ジョージ=フランシス=タンバレインが、慈愛に満ちたエメラルドの目で彼を見つめていた。
「話って何だ?俺はもうあんたとは二度と会いたくないと言った筈だ。」
「ウォルフ、お前に辛い思いをさせたことはどんなに謝っても足りないだろう。だからお願いだ、この家で暮らすと言ってくれないか?」
「何度頼まれてもお断りだ。お前達のような性根の腐った人間どもの巣窟に、誰が住みたいと思う?」
「お前が何を言いたいのかがわかる。だが・・」
「ジョージ、まだ話は終わらんのか!」
ウォルフとジョージが言い合っていると、書斎のほうから怒鳴り声が聞こえたかと思うと、アーニーが車椅子を押しながらリビングに入ってきた。
「父さん、お願いですから部屋で休んでいてくれませんか?」
「こいつがお前の息子か?」
老人の猛禽を思わせるかのような鋭い目が、ウォルフへと注がれた。
「確かに俺はこの男の息子だが、俺に父親など居ない。もう俺の話は終わったから、失礼させて貰う。」
老人の脇を通り抜けようとしたウォルフだったが、老人の手が鉤爪のように彼の腕に食い込んだ。
「待て、わしの話はまだ終わっとらんぞ!」
「離せよ、ジジイ!」
「年長者に向かって何という口の利き方だ!」
老人がウォルフに向かって杖を振り上げようとすると、ジョージが二人の間に割って入った。
「父さん、これはわたしたち親子の問題です!」
「黙れ、ジョージ!今すぐこいつの婚約者とやらを呼んで来い!」
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