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※BGMとともにお楽しみください。
「初めまして、高田敏明です。」
「初めまして、長谷川眞琴と申します。」
「眞琴さんは、箏の先生をされているんですよね?」
「ええ。敏明様はなにをされているのですか?」
「僕はまだ学生で・・」
「あら、そんな事気にしませんわ。わたくしだってこの前まで女学生だったんですもの。」
「そうですか・・」
敏明と会った後、歳三は眞琴を自分の部屋に呼び出した。
「この縁談、進めていいんだな?」
「ええ。わたくし、高田様のことを気に入りました。」
「そうか・・」
歳三はそう言うと、千尋の仏壇の前に座った。
「千尋、眞琴の花嫁姿をお前ぇと見たかったな・・」
「お父様・・」
歳三の背中が小さく震えていることに気づいた眞琴は、そこへそっと顔を寄せた。
数ヶ月後、眞琴と敏明は結納を交わし、後は祝言を挙げるのを待つだけだった。
「眞琴、これをお前ぇにやる。」
「それは、お母様の・・」
「千尋が・・あいつが俺に嫁いで来た時に、髪に挿していた鼈甲の櫛と簪だ。」
「ありがとうございます、お父様。一生大切にいたします。」
眞琴はそう言うと、歳三から千尋の形見である鼈甲の櫛と簪が入った桐の箱を受け取った。
「何だかこっちまでわくわくしちゃうねぇ、あたしももう一度嫁に行こうかねぇ?」
「まぁ、雅代様ったら。」
実家の床の間に置かれた衣桁に掛けられてある白無垢を雅代と眺めながら、眞琴はそう言って笑った。
眞琴と敏明の祝言は、紅葉映える秋の日に行われた。
「眞琴ちゃん、おめでとう。幸せになってね。」
「ありがとうございます、雅代様。」
「眞琴、そろそろ出発しねぇと祝言の時間に間に合わねぇぞ!」
「わかったわ、お父様。」
白無垢を纏い、唇に紅をひいた眞琴は、まるで天から舞い降りた天女のように美しかった。
「幸せになるんだぞ、眞琴。」
「わかりました。」
「きっと、千尋も空からお前ぇの花嫁姿を見ているだろうよ。」
「ええ・・」
“いぶき”を出発した花嫁行列を見る為に、近所の住民達が集まって来た。
「あれ、眞琴ちゃんじゃないかい?」
「いやぁ、あんなに小さかった眞琴ちゃんが綺麗になって・・」
「幸せにお成りよ~!」
馬に乗った眞琴は、住民達から祝福の言葉を受けながら、彼らに笑顔を浮かべた。
眞琴が嫁ぎ先である高田邸へと着くと、そこには黒紋つきの羽織袴姿の敏明が玄関先で彼女を待っていた。
「眞琴さん、これから宜しくお願いします。」
「わたくしの方こそ、宜しくお願い致します。」
眞琴はそう言って敏明に頭を下げると、彼に手をひかれながら高田邸の中へと入っていった。
高田邸の大広間で祝言を挙げた眞琴は、そっと髪に挿している鼈甲の簪に触れた。
今この瞬間にも、千尋が自分の花嫁姿を見てくれているような気がした。
「どうしました?」
「いいえ・・」
「余り緊張しないでください。」
敏明はそう言うと、眞琴の手をそっと握った。
―完―
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