イラスト素材提供:White Board様
千尋が襷がけをして家中の掃除をしていると、誰かが戸を叩く音がした。
「どちら様ですか?」
「土方さんのお宅ですか?」
「ええ。」
「東京の荻野様から、お荷物が届いております。」
「有難うございます。」
郵便配達夫から小包を受け取った千尋は、家の中に戻るとその小包を解いた。
中には、美しい緑の地に薔薇の刺繍が入った着物が入っていた。
“千尋さん、お誕生日おめでとう。いつまでもご主人と仲睦まじく暮らしてくださいね。英子”
(英子義姉様・・有難うございます。)
英子が贈ってくれた着物を、千尋はそっと抱き締めた。
「ただいま。」
「お帰りなさいませ。」
「それは?」
「さっき、東京の義姉から届きました。」
「そういえば、今日はお前の誕生日だったな。」
そう言うと歳三は、懐からベルベットの箱を取り出した。
「それは?」
「まぁ、開けてみろ。」
「はい。」
千尋が箱を開けると、そこにはペリドットの指輪が入っていた。
「これは・・」
「随分と高い買い物だったが、お前の喜ぶ顔を見る為なら悪くねぇなと思って・・」
「有難うございます。」
数日後、太田の屋敷で女学校設立のための会合が開かれた。
「太田様、お久しぶりです。」
「おぉ、誰かと思ったら千尋さんじゃないか!その着物、よく似合っているよ。」
「有難うございます。」
英子から贈られた着物を太田に褒められ、千尋は彼に礼を言うと嬉しそうに笑った。
「太田様、女学校設立のための資金は、どうなっておりますか?」
「あと少しで、女学校設立のための資金が集まる。あとひと踏ん張りだ。」
「そうですか。」
「東京の女学校で、君は狩野議員のお嬢さんと会ったそうだね?」
「ええ。余り彼女とは相性があいませんが・・」
「まぁ、人には好き嫌いがあるものだ。余り気を落としては駄目だよ?」
「はい・・」
「今日はわざわざ来てくれて有難う。」
千尋は太田から注がれた葡萄酒を一口飲むと、彼に微笑んだ。
「ここに、女学校が建つんですね。」
「ああ。お前が通っている女学校のような、立派な学校を建ててみせるさ。」
女学校建設予定地の前に立った千尋と歳三は、大きな期待と夢に胸を膨らませていた。
「今日は少し疲れたな。」
「ええ。」
「なあ千尋、こうしてお前と二人きりでいると安心するんだ。」
「わたくしもです。」
「これからは、ずっと一緒だ。離れていても、俺達の心はひとつだ。」
「ええ・・」
歳三は千尋の体温を感じながら、ゆっくりと目を閉じた。
翌朝、千尋と歳三が朝食を食べていると、誰かが戸を荒々しく叩く音がした。
「誰でしょう、こんな朝早くから・・」
「千尋、お前は押し入れに隠れていろ。」
「わかりました。」
千尋が押し入れに隠れると、誰かが戸を蹴破る音が聞こえた。
にほんブログ村