元気のない台湾、グローバル化、フラット化・・・
先月下旬、不動産の用事でフィリピンに行きましたが、日本へ帰る途中、台湾にも立ち寄ってきました。下の写真は、フィリピンと台湾で買った本を並べたものです。台湾で買ったのは、中国語の「工作消失中!」(仕事がなくなる!)という、ショッキングなタイトルの経済雑誌。フィリピンで買ったのは、英語の「Think Rich, Pinoy!」、「Grow Rich, Pinoy!」という、いずれも不動産投資で儲けようぜ、という趣旨の本。これらの本は、両国の経済的な勢いの差を象徴しているかのようです。すでに工業化して高所得国になり、経済が成熟して、日本と同様、低成長と失業問題、少子高齢化に悩むようになった台湾と、一方で、これまで経済発展に乗り遅れたがゆえの低所得と、高い英語力のおかげで、いま経済グローバル化のなかで好景気に沸き、この世の春を謳歌するフィリピン。両者は、まだ経済力や所得水準に大きな差がありますが(一人当たりGDPで、台湾は約2万ドル、フィリピンは4千ドル弱)、勢いの差は断然、フィリピンが上です。経済のグローバル化は、国・地域ごとの所得格差を、猛烈な勢いで平準化(フラット化)するのかもしれません。11月27日・・・台湾の桃園空港に下り立ち、近くのカルフールで買い出しすべく、すぐさま、タクシーに飛び乗った私。台湾のタクシー運ちゃんは気さくで、客にすぐ話しかけてくる。こちらが中国語さえできれば、会話が弾む。で、特に印象に残ったのは、行きと帰りに、別々の運ちゃんが異口同音に、「台湾は不景気でどうしようもない。仕事がない」と言ったことです。運:「いま、台北は、離婚率すごく高いんだぞ、なぜか知ってるか?」私:「知りません・・・」運:「とにかく、生活が苦しいんだ。マンションの価格はべらぼうに高い。それなのに・・・ろくな仕事がない。」私:「本当すか?」運:「俺の息子もそうだけど、大学院出たって、仕事ないんだよ。首尾よく、仕事にありついたところで、月給はせいぜい3万8千元(10万円弱)、しかも雇用は不安定・・・」彼の話を聞きながら、外を見やると、いつも見慣れた中?(ヂョンリー)の街が、心なしか、くすんで見えました。台湾の街に、確かに、以前のような猥雑な元気はない。上の本の副題は、「昔は、台湾の奇跡、今や、台湾崩壊・・・・」。世界中のiPhone製造を一手に引き受けている、Foxconn(富士康)をはじめ、中国大陸で成功した、台湾企業の数々の栄光の陰で、台湾の中流層は、仕事の流出や雇用不安におびえつつ、下流・下層に落とされまいと、必死でもがいているようでした。台湾も、日本も、米国も、事情は似たようなものですね。Third World America (第三世界アメリカ)という本が、英語圏でよく売れているようですが、経済グローバル化、フラット化に巻き込まれた、先進高所得国では、ほぼ例外なく、中流層が解体・二極分化する。工業化の時代に成功した米国、日本、台湾・・・成長期には分厚かった中流層が、今や軒並み解体し、時代に適応できた少数者だけが、上流層として、さらに富を増やす。一方で、大多数は下流に追いやられ、低賃金、不安定雇用に甘んじる。そういう人達は、「こつこつ頑張っていれば、いつか報われる」ような経済社会を望む。でも、そんな世の中は、たぶん、やってこない。閉塞感に苛まれた彼らの目には、いま住んでいる国・社会が、「壊れていく」ように見えるのでしょう。「台湾崩壊」と言ってる人、「日本が壊れる」と言ってる人、「米国が第三世界になる」と言ってる人・・・どこも皆、構図は同じですね。もとの時代に戻りたくても、戻れない。なぜなら、フラット化の原動力となっているのは、中国、インド、ブラジルをはじめとする、新興国。20億人を超える人々が、豊かになりたいと望み、上昇志向むき出しで経済活動をする。そこに、グローバル金融資本の巨額なマネーが流れる。その勢いには、今のところ、誰も逆らえない。私たちは、そういう時代に、生きている・・・・。