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意外な戦史を語る~  カモメとウツボのメクルメク戦史対談

意外な戦史を語る~ カモメとウツボのメクルメク戦史対談

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2013.02.07
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カテゴリ:戦争と文学・陸軍
(カモメ)少佐は「どうにかしなけりゃならんことは判っとる、自明のことだ。ただその手段が問題なのさ」と鼻先で笑う奇妙な笑いを、ひとしきり続けたのですね。

(ウツボ)その間も村上中尉の頭の内側にあるものを推しはかるように、じっと村上中尉の眼から視線を逸らさなかった。

(カモメ)このような不気味な視線に射竦められて、村上中尉は本心を見透かされないためには、ひどく過激な思想を頭の中で操作していなければならないような気分がしました。

(ウツボ)少佐と別れると、村上中尉は相模原の近くにある陸軍士官学校に向かった。学校本部の建物に入っていくと、そこにも将校たちのあわただしい往来があった。

(カモメ)その織りなす雰囲気は陸軍省の場合と異なっていた。陸軍省は敗戦のショックに動揺しながらも、新しい事態に対応するために絶えず膨大な陸軍に指令を発し、そのメカニズムを運転し続けなければならなかったのですね。

(ウツボ)そうだね。だが、陸軍士官学校は、軍隊ではなく、もともと同志的結合であったから、今ではあらゆる責任の軛(くびき)から解き放たれているようだった。

(カモメ)支離滅裂になった廃墟の中を、群れを失った野獣たちのように、ひどく孤独な顔つきをした将校たちが横行していました。

(ウツボ)彼らはめいめい違った思惑の上に互いに深い猜疑と警戒の眼差しを投げあいながら、それぞれの目論見(もくろみ)を懐いて徘徊していた。

(カモメ)何かブツブツ呟きながら謄写版のロールを操っている者があり、村上中尉が覗き込むと、戦争継続の趣旨を記した伝単(ビラ)が刷られていました。

(ウツボ)何人かの佐官を含めて、かなり大勢の将校たちが群れ交わっていたが、その中で誰が首魁であるか、村上中尉はすぐに見分けられた。

(カモメ)ここでは襟章の権威が影を失って、二人の将校(一人の中尉と一人の大尉)が、彼らのリーダーシップを掌握していたのですね。

(ウツボ)そうだね。その一人である、進藤中尉は、連日、相模の海軍飛行場から練習機を駆って、東京の上空に伝単を撒き散らした。

(カモメ)もう一人の大尉は、関東地方に所在する師団司令部に自動車を乗りつけ、師団長に迫って、抗戦を誓わせたのです。そして絶え間なくピストルを天井に向かってブッ放して、意気すこぶる軒昂たるありさまでした。

(ウツボ)村上中尉が彼らに対してとりわけ垂涎(すいぜん)にたえなかったのは、あのずっしり重量のあるピストルであった。

(カモメ)そうですね。村上中尉は軍刀しか持ち合わせていなかったので、たいへん肩身の狭い思いがしたのです。

(ウツボ)村上中尉の軍刀は正しい由緒のある備州の業物であったが、あの鞣革のサックに入った精巧な文明の利器の前にはなんの意味もないように思われた。

(カモメ)進藤中尉は村上中尉の同期生でした。それまで同期生の間で、進藤はあまり目立つ方の存在ではなかったのですね。

(ウツボ)そうだね。彼は左翼(背の低いほうから)二番目か三番目に整列して、懸命に股を大きく拡げて七十五センチの正式の歩幅を踏もうとしている、色の黒い幼年学校生徒だった。

(カモメ)その後、村上中尉は所属中退が違ったりして、彼を見ないうちに、進藤中尉は六尺近い青年将校に変貌していたのです。だが、大男という感じではなく、ひょろりとした背丈でした。

(ウツボ)村上中尉が士官学校の区隊長として赴任したとき、進藤中尉も砲兵科の区隊長としてやってきたのだね。

(カモメ)村上中尉は忠義の念慮の浅い、その形而上の弱点をさらけださないために、常に軍律に違反しないように惧れなければならなかったのです。

(ウツボ)進藤中尉が真に忠義な将校である動かしがたい証拠として、彼の口からは純忠・尊皇・大儀に死す、といったような言葉が、まるで機関銃の弾丸のようにたてつづけに打ち出されてきた。

(カモメ)村上中尉らが本部の一室に集まっていたとき、士官候補生の一人が校内の神社の前で割腹したという報せが入ってきて、一同は緊張しました。

(ウツボ)その報知を持ってきた将校は、深く感動した面持ちで、将官連の意気地なさに較べて、若い生徒にはまだこれだけの気概がある、と口をきわめて賞揚した。

(カモメ)だが、詳しく模様を訊ねると、傷はそれほど深くなく、すぐに医務室に担ぎ込んで手当てをしているから、生命に別状はあるまいという話でした。

(ウツボ)村上中尉はほっとしたが、さらに割腹に使用した武器が三十年式銃剣ときかされたとき、とうとう失笑をこらえかねた。

(カモメ)切尖(きっさき)の鈍い銃剣では、野外炊飯のさい、大根一本切るのでも容易ではなかった。その銃剣を腹に押し当てて、沈痛な顔をしたであろう士官候補生の姿を髣髴させると、どうにも我慢がならなかったのですね。

(ウツボ)だが、あたりを見回すと、笑えたのは村上中尉ひとりだった。進藤中尉の咎めるような視線と触れ合うと、村上中尉は次第に腹の底が凍りつくような気がした。








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最終更新日  2015.07.20 10:34:08


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