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テーマ:読書の愉しみ(959)
カテゴリ:読みたい本
「うたかた」は泡沫、水面にできる泡のことで、はかないもののたとえに使われます。
『方丈記』の「流れは絶えずしてしかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」の文章が有名です。 取り壊し予定の団地にひとり残っていた房子は、ニューヨークの息子の元に行くと言っていたのですが、餓死していました。ベランダに乗り出すようにして、幸せそうな微笑を浮かべて。 浅田次郎の『うたかた』は、昭和35年に20倍の抽選に当たって住み始めた房子と家族の歴史をたどります。 蛍光灯の白い光が幸福の象徴だった時代。紙芝居、アイスキャンディー売りや焼き芋屋さんが来て、奥様たちが井戸端会議をしていた中央公園。 白熱電球が当たり前であった時代、白い蛍光灯は来たるべき時代の明るい象徴でした。テレビは家庭にあった記憶がありますが、ブラウン管の白黒テレビでした。 房子が生きた時代は父母よりも少し前ですが、時代背景はリアルなものとして理解できます。私より下の世代では、歴史的な出来事になってしまうのでしょうが。 入居時は植えられたばかりの若木だった桜は、団地と、家族の歴史を見続けてきました。 大きく育った桜が満開になる頃、房子は旅立ちます。 この世の生はうたかた。でも、満開の桜に彩られた思い出は色あせることがありません。 参照元:浅田次郎『見知らぬ妻へ』光文社文庫から『うたかた』 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 18, 2023 12:00:22 AM
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