「第2版 認知症の行動と心理症状 BPSD」 を読んで
連休を利用して、「第2版 認知症の行動と心理症状 BPSD」(国際老年精神医学会が作成した老年精神医学専門教育のための教材集「BPSD教育パック第2版」の翻訳本)を読んでみた。以下が、その内容とコウノメソッドとの対比である。 認知症の行動と心理症状BPSDにはコウノメソッドで分類されている陽性症状(幻視、妄想、誤認、焦燥、攻撃的行動、徘徊など)と陰性症状(うつ状態、アパチー、無気力など)が混在しており、治療薬の選択に基づいてるコウノメソッドに比較して臨床医にとって役に立たない分類である。 BPSDに対する非薬物療法は一般的に薬物療法の前に実施すべきであると記載されている。一方で、非薬部療法にはいくつかの有望な非薬物治療があるが、それらの効果はわずかで依然としてさらに相当の研究が必要であるとも記載されている。日本における非薬物療法は介護サービスの利用が普及しており、非薬物療法はケアマネージャー、デイサービス、ショートステイなどの在宅介護サービス、グループホーム、介護付老人ホーム、特別養護老人ホームなどの施設介護サービスなどにより行われている。 BPSDに対する薬物療法については、焦燥、攻撃性および精神症状の治療において非定型性向精神薬はある程度の有効性が確立されているが、脳血管性の有害事象および死亡のリスクが増加するという複雑な結果が得られてると記載されている。レビー小体型認知症に伴う行動症状にはリバスタッチパッチの有効性が認められ、アリセプトには有効性は認められなかったと記載されている。レビー小体型認知症に対する非定型向精神薬(セロクエル6.25mg、ジプレキサ2.5mg、クロザリル6.25mg)はBPSDに有効であるが、薬剤性パーキンソニズムに注意して患者を観察すべきであると記載されている。セロクエルは1/3に運動症状の悪化がみられたが、ジプレキサには運動症状を悪化させなかったと記載されている。前頭側頭型認知症にはレスリが有効であるとされており、コウノメソッドの第2選択であるセルシンに準ずるものと考えられる。ジェイゾロフトやパキシルなどの抗うつ剤SSRIは2件の試験報告で結果は一致しなかったと記載されている。 一方、コウノメソッドの周辺症状に対する薬物治療は、レビー小体型認知症に伴う幻視には抑肝散2.5-10g、アルツハイマー型認知症に伴う不穏にはグラマリール25-150mg、ピック病などの前頭葉症状(脱抑制行為)には第1選択ウインタミン4-72.5mgおよびフェルガード100M2包、第2選択セルシン1-6mg、脳血管性認知症に伴う妄想にはセレネース0.2-2mg、レビー小体型認知症に伴うせん妄や意識消失発作にはシチコリン1000mg静注とはっきりした治療方針が見られ、臨床医にとってとても分かりやすく実用的である。コウノメソッドでは古典的で(安全性が高い)しかも安価な薬剤が選択されており、安全性、費用と効果のバランスもとてもよいと考える。 BPSDが大きな問題であるが、非薬物療法や薬物療法は確立されていないというのがこの本の結論であろう。国際レベルで考えても、コウノメソッドは完成度の高い中核症状および周辺症状に対する薬物療法であると言える。