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独帝の癖
独帝には妙な癖がある。それは何か困つた事に出会《でくは》すと直ぐ自分の耳朶を引張らずには居られないといふ事だ。 大分《だいぶん》以前の話だが、独帝《カイゼル》には伯母さんに当る英国のギクトリア女皇《ぢよわう》が崩《な》くなられて、葬儀の日取が電報で独帝《カイゼル》の許《もと》へ報《しら》されて来た事があつた。その折|独帝《カイゼル》は、六歳《むつつ》になる甥《をひ》を相手に何か罪のない無駄話に耽《ふけ》つてゐた。 独帝《カイゼル》は侍従の手から電報を受取つたが、なかに何か気に入らぬ事でも書いてあつたものか、(独帝《カイゼル》は英吉利と英吉利人とが大嫌ひである)直ぐいつもの癖を出して自分の耳朶《みゝたぶ》をいやといふ程引張つた。 それを見て小《こ》ましやくれた甥は言つた。 「伯父ちやん、何だつてそんなに耳を引張るの。」 「うむ、一寸困つた事が出来たでの。」 「いつも困ると、伯父ちやんは耳引張るの。」 甥は不思議さうに訊いた。 「さうぢやく。」独帝《カイゼル》は、じつと電報の文字に見惚《みと》れながら答へた。 「そんなら、もつと/\困る事があつたら、伯父ちやん何《ど》うするの。」 「その時はな、」と独帝《カイゼル》は電報を卓子《テ ブル》の上に投げ出して、その手でいきなり甥の耳を撮《つま》むだ。「その時はかうして他人《ひと》の耳を引張つてやるのぢや。」 講和問題で甚《ひど》く弱り切つてゐる独帝《カイゼル》は、今度は誰の耳を撮んだものかと、じろじろ四辺《あたり》を見胸《みまは》してゐるに相違ない。「正義」の大商人《おほあきんど》ウヰルソン氏なぞ、よく気を注《つ》けないと、兎のやうな耳朶《みゝたぶ》を拗《ちぎ》れる程引張られるかも知れないて。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年04月19日 11時28分26秒
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