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シェフの落書きノート

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2005.09.16
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カテゴリ:美味しいお店
『 大阪料理 淺井 』episode 2 の続きです。


お店の大将にお料理のおまかせのオーダーをした。

この頃になると…
やや緊張気味であったが少し雰囲気にも慣れてきた。

カウンターの向こうは、調理場である。

カウンター越しに隠れている調理場はよく見かけるが…。
淺井は違う!

堂々としている。
…というか…ほとんど丸見えである。
少し淺井のオーラに圧倒され気味だった僕も次第に平常心に戻り、まわりが見えてきた。

大袈裟な表現になるが、闇夜に眼がなれてきた様な感じですらある…。

調理場には、10~12人の板前さんがテキパキと小気味良く動いている。

人数が正確に把握できないのは、数を数えられない訳ではない。
見え隠れする板前さんがいるのだ。

まるで木の葉隠れの術とか…
分身の術を使えるのではないかと錯覚してしまうかのように。


凄い!


これぞ調理場の中の調理場!
そんな表現がピッタリとくる感じ。

すべてのスタッフに無駄な動きが全く無いようにみえる。
目を見張るほど、キビキビと一糸乱れね動きというのは、こういう事をいうのだろう。

板方、焼き方、煮方など…
整然と各2~3名づつが配置され、次々と料理があがっていく。

素晴らしい!

煮方の前が、大将が陣取っている場所である。
そう、長いカウンターのほぼ中央。

ここから、すべての指示が出ている様子。
(淺井には、2階、3階と個室などの客室があるようです。2階、3階には足を運んでおりませんので、その雰囲気等はわかりません)


お玉の上に小皿を乗せて…
「お願いします」と後ろから大将に声をかけている。

大将に、煮方の若い衆から味見が渡っているのだ。

その時々に…小さく頷いたり、大きく頷いたり、一言コメントを入れたりしている。

若い衆の眼は、真剣そのもの。
殺気すら漂うほどに真剣な眼差しで、大将の反応に全神経を集中させているのがみてとれる。


程なくして、大将が自ら持ってきて頂いた一皿目。

大将、自らである! 
感激ではないか!

「鱧(はも)の焼き霜造り」です。
…と言葉少なに大将が皿を供してくれる。
僕のななめ後ろに、先程のサービスの若い衆がそれをサポートする。

下皿の上にガラスの器
そして氷をあしらった上に、つまものをあしらい、皮を焼き炙ってお造りになっている鱧が上品にのっている。

『Oh! My God! 大阪料理とは、京の流れをしっかり押さえた上品極まりないお料理ではないか!』

お手許(箸)を割り。
鱧を口の中に運ぶ。

『新鮮な鱧、そして冷たい! 完璧だ! それにしても、この上品さは、気品ただよう香りがする。それにつけくわえて繊細な味わいだ』

心の中に味が染みわたってゆく。
美味しさと嬉しさで、自分の頬が自然とほころんでいるのがわかる。

焼いた鱧の皮の香り…
目を楽しませる妻物が口の中でシャキシャキとしている。

ひと品目もあと一口となった時。
カウンター中央に何気に目を向けた。

大将の目元が緩んでいる。
笑みが浮かんでいる。

笑っているのではない。
僕が、一皿目をいかに楽しんだかをつぶさにわかっているのだ。

達人だ!

達人とは今の時代。
TVのCMをみれば…
インスタントラーメンの世界にも沢山いる。

そんな、軽々しい達人とは訳が違う!

あれを達人というならば…
ここの大将は、そんなのを軽く超えた仙人なのかもしれない。

いーや!
そんなのと比較することは、失礼極まりないことなのだ。 



*-*-*-*

なんだか嬉しさが込み上げて来る。
大阪梅田の『The Westin Osaka ウェスティン・ホテル』にチェックインし…

大阪の賑いを肌で感じたいと、とりあえず難波まで足を運び。
久しぶりの大阪に嬉しさを感じ…
心斎橋付近で美味なる食を求めていたのだが…。

ガイドブック等を持ち歩いている訳もなく。
感だけが頼りで、こんな素晴らしいお店に出会えたのだ。

こんなにも素晴らしい調理場を肌で感じ…
そとめからでも拝見させて頂き…
料理も文句無く美味い!

感無量という言葉は、こういうことだろう。

2年経った今でも、これだけ鮮明に憶えているお店は、全くと言っていいほど記憶にない。

*-*-*-*



ひと口残っていた鱧を口に運び、お手許(箸)をそっと揃えて箸置きに静かに置く。

背筋を伸ばし、手を静かに太ももの上に…。
自然とあごを引いて眼は静かに正面に…。

…と。

正面を向いた時!

笑みを浮かべた大将が、次なるお料理を持ってきている。
すかさず、後ろからサービスの若い衆が、食べ終わったひと皿目を下げてくれる。

まさに阿吽の呼吸。

自然と軽く会釈をしてしまう。
絶妙という言葉は、この瞬間のためにあったのだと気付く。



二皿目、三皿目と進んでゆく。



『 大阪料理 淺井 』episode 4 に続く…









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Last updated  2023.10.15 22:26:54
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