最近、経済学の世界で議論になっているMMT論争について、立命館大学教授の松本朗氏が6月30日の「しんぶん赤旗」日曜版に、次のような解説記事を書いている;
MMT(現代貨幣理論、モダン・マネタリ・セオリーの頭文字)という経済理論が日本でも注目されています。
”現代の通貨は政府が保証する信用貨幣なので、政府は国債発行で自在に通貨を手に入れて財政支出できる” ”政府はインフレを抑えつつ財政支出によって経済を望ましい状態に誘導できる”とする理論です。
つまり、政府は好きなだけお金を発行できるのだから、インフレを恐れず、もっと財政支出を増やして経済に刺激を与えなさいという主張です。
この主張は経済理論の複雑な論争の火中にあります。その内容を整理し、是非を論ずることは至難のわざです。そこで、この議論が注目を浴びている背景に触れることで、論争の行方を見る目を養いたいと思います。
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政府と日銀が一体で貨幣供給増と財政支出拡大をセットで行うことを求める議論は、実は今世紀の初め頃から盛んに行われ、日本はそれを実践してきたと言えます。
MMTを唱えるステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大教授も主張するように、安倍晋三首相と黒田東彦(はるひこ)日銀総裁はMMTの政策手法の実践者です。
にもかかわらず、同じような理論が日本で再び注目されています。これは、アベノミクスの開始から6年半もたつにもかかわらず、今なお「失われた20年」(あるいはそれ以上)にわたる長期デフレに苦悩する日本経済の姿があるからです。
日本はアベノミクスで多額の財政支出と「異次元の金融緩和」を続けているのに、デフレから抜け出せないでいます。そのため、IMF(国際通貨基金)の元チーフエコノミストで政府債務の問題に詳しいハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、「日本こそ高水準の債務と低成長が同居する国ではないか」と指摘し、日本を成功例とする主張を批判しています。
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他方、MMTに立脚する論者は、日本がデフレ状態から脱却できないのは、まだ財政支出が不十分だからであって、政府は日銀と連携して財政支出をさらに増やすべきだと主張するのです。
政策手法には、いろいろな問題があります。しかし、注目したいのはMMTが長年主張してきた財政支出の中身です。MMT論者は雇用創出や福祉充実など、くらしの改善、所得増につながる政策を主張してきました。そうすれば、社会全体で所得が増え、税収も増えるというケインズ政策を提唱したのです。
日本の現実はどうでしょうか。財政支出は増えていますが、社会保障は負担増・給付減の一方、リニア新幹線や大型道路、米国の兵器爆買いなど偏った使い方になっています。これは、景気回復の実感を多くの国民が持てない中で、貧富の格差が拡大する要因の一つとなっています。
注視しなければならないのは、本当の意味で国民が潤う財政政策になっているのか、ということです。MMTへの注目はそのことを思い起こさせてくれたといえます。
(まつもと・あきら 立命館大学教授)
2019年6月30日 「しんぶん赤旗」日曜版 20ページ「経済 これって何?-国民潤す財政支出か否かが焦点」から引用
現代の通貨は政府が保証する信用貨幣なので、政府は国債発行で自在に通貨を手に入れて財政支出できる、という指摘は重要です。これだから日銀・黒田総裁は何の心配もなく、堂々と国債を買入れて一万円札を増刷してきたわけです。安倍政権の過去6年の間にデフレを克服することは出来ておりませんが、これはやはり、増刷した一万円札をリニア新幹線や米国製戦闘機などに注ぎ込んでいるからであって、これらの支出先を野党が言うように雇用の安定や福祉の充実に向ければ、国民の生活も安定し消費行動も活性化して本当の好景気が来るというものでしょう。これからの日本経済は、消費税増税による買い控えと来年のオリンピック終了後の反動による不景気と、正にリーマンショック並みの不況の到来が予想されますが、それに対する準備として今から財務省印刷局は一万円札の増刷準備に取りかかるべきだと思います。