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2021年03月14日
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テーマ:本日の1冊(3690)
カテゴリ:読書
波多野澄雄著「『徴用工』問題とは何か」(中公新書)について、歴史家で東京大学教授の加藤陽子氏は2月27日の毎日新聞に、次のような書評を書いている;


 本書の題名と著者の名前を見て、おやと思われた方は日本外交史に土地勘のある方だろう。日中戦争が日英米蘭戦争へと拡大する論理を、陸軍内の2つの立場に着目し、初めて説得的に描いたのが著者だった。1940年秋のこと、参謀本部は極東からの英蘭の影響力排除こそが日中戦争「解決」の道だと考えたのに対し、陸軍省は対米交渉こそがその答えだと考えた。陸軍の2つの戦略構想を分析したその研究は水際立っていた。

 その著者が、なぜ今、日韓関係を揺るがす大問題と格闘しようとしたのか。これをまず考えたい。著者には同じ版元の『国家と歴史』(2011年)という本がある。本書を書いた時、著者の胸に抱かれていた問いは次のようなものだったという。日本政府は、戦争に起因する「負の遺産」にどう向き合ってきたのか。また、国民によって共有可能な歴史認識=公共的記憶はどうしたら持てるのか。



 この2つの問いの延長上に今回の本はある。いまだ自国民の公共的記憶すら持てない日本だが、将来的には日韓間で公共的記憶を摺り合わせる作業も必要となろう。その際の土台作りをしておく、これが著者の意図だと思われる。本文と参考文献・資料・年表を合わせて全246頁。決して大部ではない本書からは、書き手の並々ならぬ本気度が伝わってくる。

 著者は現在まで、アジア歴史資料センター長等を務めてきた。適切に作成され、保存されて初めて将来の国民の共有財産となしうる公文書の番人、それが著者だ。その人が「徴用工」問題を描くに際し、本分野の最高の成果『歴史認識はどう語られてきたか』(千倉書房)の著者である木村幹氏に初稿の閲読を依頼した事実も、本書の完成度の高さを裏付ける。

 事は18年10月、韓国大法院(最高裁)が、原告の韓国人元徴用工に対する賠償を、被告の日本企業に命じたことに始まった。本判決の争点は、原告らの損害賠償請求権が65年の日韓基本条約・日韓請求権協定によって消滅したといえるかどうかにあった。判決は、今回の賠償請求権が、日本企業の反人道的な不法行為を前提とした強制的動員被害者の慰謝料請求権だ、との解釈に立っていた。

 本書は実証的な手続きによって、日本の朝鮮統治の特質、戦時労務動員の実態、日韓会談の全容等を精緻に描き出した。その上で著者は、日本の戦時労務動員の性格が、大法院の下した判決、すなわち「植民地支配と直結した日本企業の反人道的不法行為」だと一括するのは難しいのではないか、との判断を下した。

 大急ぎで付言するが、著者の議論は、大法院判決を国際法の常識を無視したものだとする雑な評価のレベルの上にあるものではない。著者の着眼点で優れているのは、日本の最高裁判決(07年)を解釈した部分だ。日韓請求権協定によって個人請求権が消滅したとは見なせず、請求権の「放棄」とは、請求権を実体的に消滅させることまでを意味していない、との判断だととらえる。よって、個人請求権が消滅していない、との中核的論点では両国の司法判断は実のところ一致しているのだ。

 あとがきで著者は「隣人韓国の歴史的経験を多面的に理解し、それを未来につなげることは、一層重要な営み」とまとめる。共通の土台は作りうるのだ。


2021年2月27日 毎日新聞朝刊 13版 12ページ 「今週の本棚-日韓『公共的記憶』への土台作り」から引用

 この記事は、一つ一つの文が真実を表現しているように感じられて、読む者の気持ちをすっきりさせてくれる気がする。著者である波多野澄雄氏は、自らの専門分野において先の大戦時に日本側の戦争指導層には、日中戦争の「解決」のために極東から英蘭の影響力を排除するべきという考えと対米交渉を優先すべきとの考えがあったことを明らかにしたことを紹介し、その波多野氏が「徴用工」問題に取り組んだ意義を分かりやすく説明している。いずれ将来は、日韓の間で公共的記憶の摺り合わせ作業をする時代が来るという指摘も示唆に富んでおり、その時までに出来るだけ多くの人々に「『徴用工』問題とは何か」(中公新書)を読んでほしいと思います。





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最終更新日  2021年03月14日 01時00分06秒


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