今年の3月末、建設工事中の万博会場でガス爆発の事故が起きてから事故現場の写真が公開されるまでの経緯について、朝日新聞大阪社会部の岡野翔記者は14日の同紙夕刊に、次のように書いている;
来年の大阪・関西万博に関して、いち大阪市民としては反対も賛成もない。
ただ、膨大な税金が使われ、会場の地盤沈下や可燃性ガスの発生といったリスクも存在する以上、主催者側の「問題ない、大丈夫だ」との言説をつど疑ってかかることは、記者の仕事の基本中の基本と考える。
3月末、会場で建設中のトイレ棟でメタンガスが原因とされる爆発が起きた。
日本国際博覧会協会は翌日になって公表し、コンクリート床の破損箇所が中途半端に見切れた写真1枚だけを報道各社に提供した。
被害の全容を示していないことは明らかに思われ、知られてはマズイことがあるのでは、と直感した。
別の写真を入手すべく、消防記録や協会からの報告書を念頭に、大阪市に情報公開請求を試みた。写真は確かに存在したが、全て「黒塗り」にされていた。
他方、請求の結果、施工業者の消防連絡が爆発の4時間半後だった事実がわかった。5月19日に報じる際、協会に被害の全容がわかる写真の開示も求めた。だが、広報担当者は「提供できない。理由は把握していない」と繰り返した。
協会は22日、「施工業者が報告していなかった」とする屋根材の損傷箇所などの写真を公表した。ただ、被害の全容は依然明らかにならず、同僚も別の写真の開示を再び強く求めた。
翌日、爆発時に現場近くにいた作業員が撮った写真が「X」(旧ツイッター)で拡散された。協会の写真にはなかった床面の亀裂や点検口の損傷が明らかになり、SNS上では、協会への疑念が以前にも増して強まったように見えた。
すると27日、協会は床面の別カットを急きょ公表した。爆発の4日後と19日後に撮られたもので、幹部は「被害の矮小(わいしょう)化や隠蔽(いんぺい)との臆測を呼んでいたので出した」と平然と言った。
いや、ちょっと待ってほしい。まるで市民らにあらぬ疑いをかけられたかのような言いぶりではないか。「臆測」を招いたのは、情報公開に消極的なあなた方の姿勢ではなかったか。
6月、写真を投稿した作業員に話を聴いた。元々は勤務先への報告用に撮ったものだが、協会の対応に不信感を覚え、リスクを承知で行動に出たと語った。
開幕まで10カ月。主催者側は都合の良い情報だけをアピールせず、都合の悪い情報こそ、市民らに誠実に正直に説明すべきではないか。このままでは、市民らにそっぽを向かれたまま本番を迎えてしまうだろう。
(大阪社会部)
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<おかの・しょう> 2008年入社。警察や国税の担当が長く、大阪社会部は2度目の在籍。カジノリゾート計画が進む人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市)の動向に関心があり、最近は万博の取材に軸足を置く。Xは@okanosho_0308
2024年6月14日 朝日新聞夕刊 4版 7ページ 「取材考記-万博、臆測招かぬ情報公開を」から引用
3月末に起きた爆発事故が、建設作業に従事する作業員が必要があって持ち込んだガスボンベが取り扱い上の不注意で爆発したというような「原因」がはっきりした事故であれば、これは再発を防ぐことは人的努力で十分可能であるが、夢洲の地盤を形成する過去に埋め立てに使用された大量の廃棄物の腐敗で発生したメタンガスが原因となると、これは万博の開催中に再発しないという保障は何処にもないわけで、そうなると「夢洲が万博会場に適した場所なのか」という根本的な問題に火が付く可能性が大きいことは容易に想像できます。万博推進の責任者が、そうなる事態を避けるために爆発現場の写真公開を渋ったとすれば、それは一般市民に対する背信であり、下手をすると万博開催中に2回目の爆発が起きないとも限らない。そんな危険な場所に「小学生を無料招待」などもってのほかと言うしかありません。