カテゴリ:読書感想
昔はかならず教科書に載った有名な1章。「我輩」とのたまう猫の生い立ち、寄宿先が決まって、そこの主人のことやら、ご近所に猫とのお付き合いをユーモラスに簡潔に描いている。登場人物のすべてに名前がついていない。構成といい、展開といい立派に完結している1話。 解説の伊藤整が書いているように「この第一回が独立した作品であった」(雑誌「ホトトギス」発表)ここが強く印象に残っているので内容的にはこれきりかなと思ってしまっていた。 とんでもない、1章が人気を博したので連載が始り、これに続く2~11章。脱線、蛇足気味のだらだらとした饒舌的文章が面白い。故事熟語が難しく、解説に頼らなければならないのが面倒くさいと言えばいえるけど。 登場人物も変化に富んでいる。ざっと上げてみると、 「猫」の次の主人公珍野苦沙弥先生(臥竜窟(書斎)を出たがらない中学教師、「我輩」の寄宿先主人)に妻君 越智東風、水島寒月、八木独仙、迷亭先生、多々良三平の苦沙弥先生の友人やら、弟子やら。 成金一家金田、金田鼻子、金田富子の親子に加担する鈴木藤十郎(この金田夫妻が水島寒月を娘富子の婿にしたく、寒月の博士号取得を気にしている。) 面白いのは10章。苦沙弥先生の幼い3人の娘「とん子」「すん子」「坊ば」登場。 三姉妹の朝食風景のハチャメチャぶりもものすごくて笑うけど、主人の姪「雪江」さんが遊びに来て、「あらいやだ。よくってよ。知らないわ。」などと当時女学生の流行語が活き活きしている。 また、雪江さんと叔母さん(主人の妻君)が結婚について弁論していると、幼い3人の娘たちが 「招魂社にお嫁に行きたいんだけれども、水道橋を渡るのがいやだから、どうしょうかと思っているの」 「御ねえさまも招魂社すき?わたしも大すき。一所に招魂社へ御嫁に行きましょう」 「坊ばも行くの」 と、三姉妹とんでもない望みを持っている。 こんなところで靖国神社が出てくるとは…。しかも、「斯様に三人が顔を揃えて招魂社へ嫁に行けたら、主人もさぞ楽であろう」だとさ!なにやらすごい人気。複雑。(P428) 11章の現代社会への予言も的中にはびっくり。つまり、人間が個性中心になって男女が結婚が不可能になるというのである。明治時代にこの予言だ!(P523) 「猫」があちらこちらと徘徊しながらの人間観察。皮肉たっぷり、愉快愉快。「猫」が最後にどうなったか?それも意外。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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