永 遠 の と な り
やっぱり花粉の影響でしょうか?
医師はやや首を傾げるようにしてみせて、
さあ、どうでしょう、まだちょっと早い
ですけどね、と言った。
去年はたしか3月末頃から目にきたはずだ。
ちょうど池袋の部屋を引き払ってこちらへ
越してくる前後のことだった。
花粉症に罹ったのは3年前だが、コンタクト
レンズが使えなくなったのは昨春からである。
今の状態だと使用しない方がいいですよね?
「そうですねぇ。両眼ともかなり充血していて、
結膜炎の一歩手前です。少なくともここ数日は
控えた方がいいでしょうね」
眼の前の女医は眉を寄せるようにして言った。
歳は幾つくらいだろう。
まだ20代半ばに見えるが、もう少しいって
いるかもしれない。目鼻口が顔の中央に集まり
過ぎているものの、なかなかきれいな人だ
検眼が終わった。診察室のライトが点き、
短めのスカートから伸びた細めの脚や、
白衣に包まれた案外しっかりした感じの
腰回りが浮かび上がる。
( 以 下 省 略 )
著者: 白石一文(しらいし かずふみ)
1958年、福岡県生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業。
出版社勤務を経て、小説家としてデビュー。
著作に「一瞬の光」「不自由な心」
「すぐそばの彼方」「僕のなかの壊れていない部分」
「草にすわる」「見えないドアと鶴の空」
「私という運命について」「もしも、私があなた
だったら」「どれくらいの愛情」がある。
2007年5月30日 第1冊発行
発行所: 文芸春秋
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最終更新日
2021年10月28日 09時53分53秒
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