茶木の音楽紀行 16
これはえらいことだぞ!と思い立ちつくしていると、「タクシー捜してるか?」と言う声が後ろから聞こえて、僕はふり返った。50代ぐらいの男が立っていた。男はもう一度「タクシー捜してるか?」と日本語で尋ねた。「泊まる所を探している」と僕が言うと、彼は車まで僕を案内し後部座席に座らせた。彼はどうやらタクシーの運転手のようだった。車は動きだし、真っ暗闇の中をどこまでも走った。「何処に行っていた?」と彼は尋ねて来て僕は「ドイツに行っていて日本に帰るところだ」と答えた。 この男はかなり日本語ができるようだ。少し沈黙があった後、彼は「タクシー代とホテル代合わせて5000円くれ!」と言って来た。5000円と言えばウォンに換算するとかなりの額になることは分かっていたが、こんな所で降ろされても困るのでおとなしく支払った。しかしそのころにはもう30分は走っていて、なんだか僕は不安になって来た。少しすると町に入って何度か道を曲がり、車は建物の前に止まった。彼は僕をその建物に案内して入り口にある受付のような所に座っていた別の男と話金を幾らか渡した。そこは古い旅館でその男はそこの店主のようだった。タクシーの運転手はそのままいそいそと帰って行ったが、おそらく彼はほとんどの稼ぎを自分が取ったにちがいなかった。店主は僕を部屋に案内した。木造建てのかなり古い物で廊下には変なカーテンがかかっていて、部屋の中にはダブルベットとその横に大きな鏡があり、床には変わった模様が書いてあった。 つづく