大人のための夜のミュージアム・トーク
東京都現代美術館で開催中の「カルティエ現代美術財団コレクション展」では、「友の会」限定イベントとして、大人のための夜のミュージアム・トークという催しする、とのこと。 せっかくの機会なので行ってきました。 この展覧会についてはオープニングから都知事の発言、さらに芸術とはなんぞやまで、あまり本筋とは関係ない話題しか、私は触れていませんでした。それって、どうなんだろう・・・とは思うのですが。今回も、展覧会の内容についてではなく、「ミュージアム・トーク」を中心に書こうと思います。感想なら、みなさん書いていますし。日 時:2006年6月2日(金)18時30分~20時30分会 場:エントランス・企画展示室対 象:友の会会員参加人数:70名 入りますと、受付で紙コップに入った水をいただきました。紙コップは・・・ニーナ・ヨブスのデザインのエンボス加工がはいった黒字に白いドットが入ったデザインですね。 飲み物を受け取ると、ホール中央、ちょうど入り口に近い場所に椅子が並べられ、窓側にスクリーンが張られておりました。ここで、ひととおりお話を聞いてから中に入る、という趣向です。 ただ・・・これにはちょっと失望しました。 せっかく作品が来ているにも拘らず、パワーポイントで作品の写真を映しながら、その解説をしていく、というツマナラさ。しかも、それが延々40分ほど続きます。せっかく営業時間外に美術館を開けているのですから、なぜ、わざわざホールでパワーポイントの画面を眺めなければいけないのでしょう。 しかも作品解説も、普通の展示室に常駐している係員さんレベル。一体、何をやりたくて、このイベントでどんな体験を「お土産」として来場者に持って帰ってもらおうとしているのか、わけがわかりません。 曲がりなりにも友の会の会員のみなさんです。もうカルティエ展がオープンしてから一ヶ月以上経っておりますし、ほとんどの方は既に見ているはずです。 しかも、わざわざ年会費を払っている人たちですから、美術の予備知識もあるでしょう。そういった顧客層に全然、マッチしていないと思うのです。しかも、平日の夜。仕事を早めに切り上げたり、飲みに行くのを遠慮して駆けつけた人たちもいただろうと思うのですが、その期待とは、あまりにも乖離しているのではないでしょうか。 いや、見ていない人も中にはいたと思いますよ。それでも、本当にあの解説内容で満足できたとは、あまり思えません。かなり他の方も退屈しているのは、私の席から見ても明らかでしたし。それに、説明をしているキュレーター氏は、プロジェクターの側に配置したPCを操作する為に、お客さんの席の背後に立って解説しているので、つならなそうな客席の雰囲気が伝わりません。 しかも、パブリックに話される経験が少ないせいか、かなり話は詰まり気味で、自分が話すのが精一杯という次第。うーん!? 話が終わった後は、いよいよ展示室。ここでは、てんでばらばらに来場者が見て周り、それに合わせてキュレーターが歩いて、適宜、話すという形。観覧はご自由に、という形です。それはそれで良かったし、話しかけたい人は話せばよい、という自由さも、悪くはないのですが・・・。 ちょっと芸が無いかな・・・。何かしらディスカッションなり、「専門家が感じる、この作品の見所」とか、もっと「ココだけの話」をできるようにした方が良いと思うのです。作品の疑問とかは普通の係員でも対応できますよね。せっかくキュレーターなのですから、ちょっと「違ったところ」を見せて欲しいのですが・・・ そりゃ確かに、思ったよりも多く(70人!)も来てしまったという「うれしい誤算」はあったと思いますよ。だから、どうやって対応するか、というので、多少ぞんざいになってしまったかもしれない。 でも、沢山の方が来場したのは、友の会員の皆さんが、それだけ期待していたということ。最初の「座学」に1時間を費やし、せっかく2時間のミュージアムトークのうち1時間しか実際の作品を見ていない、というのは、ちょっとおかしい。 とまで辛口で書いていますけど、私は今回の試みは素晴らしかったと思います。 友の会の会費は、美術館にとっての安定収入源ですから、増えれば増えるほど安定経営に寄与します。いままでの現代美術館も、かなり手厚い特典がついていると思うのですが、美術が本当に好きな人って、そんな特典よりかは、作家・専門家・他の美術好きと、ちょっと話したいな、感想を言い合いたいな、というのがあるとおもうのです。 そのコミュニティー作りとしても、実際に会員サービスとしても、会員限定の催しは良い企画だと思います(六本木ヒルズの森美術館は、かなり力を入れているように見受けられますが。館長さん以下スタッフ全員がツアーの後に話す機会がありますから)。 また、松井えり菜さんの作品に内蔵されている「オルゴール」(It's a small world, Star Warsの2曲)を聞かせてもらったり、普通に見ただけではわからない、貴重な作品体験もできたことは、とてもよかったと思います。 こうやって、美術館の熱心な顧客と話すことで、美術館のファンを増やす。 また、話していく過程で、顧客の嗜好や館の問題点を聞きだしていく・・・。 そう、こういう場のキュレーターは、単なる解説員じゃダメなんです。 という意味では、今回は小さな一歩であっても偉大な一歩。次は期待しています。 注:以上の辛口は、直接、キュレーターさんにも伝えました。 大阪にあるホテル、リッツ・カールトンの支配人が書いた本。 このホテルの人たちのコミュニケーション能力、ホスピタリティは本当に高いです。 その秘密の一端を読むことが出来る良書。私も、この本を読んでリッツ・カールトンのサービス水準の高さが納得できました。 せめて、少しは見習ってもらいたい部分ですね。