「都市に生きるアール・デコ展」に行ってきたぞな
銀座にあります資生堂ギャラリーとハウス・オブ・シセイドウ。二つとも資生堂が運営するアートスペースですが、意外にも今回が初めての共同企画展だそうです。 銀座という土地柄、資生堂というブランドを意識したスタイリッシュな展示をしている両者ですが、どちらかといえば大通りに面している資生堂ギャラリーの方が現代作家に力を入れている印象がします。今回は、その両者が共同で企画したのが「都市に生きるアール・デコ展」です。 「アール・デコ」とは、20世紀に流行したデザイン様式ですね。日用品、自動車から建築に至るまで様々なデザインに影響を与えました。幾何学的な線が特徴的です。 今回の展覧会は、一級建築士であり写真家、紀行作家でもある稲葉なおと(稲葉尚登)さんが、世界11都市にあるアールデコ様式のホテルに泊まって撮りおろした写真作品180点による展覧会です。 世界各地にあるアールデコ様式のホテルなのですが、どうもオトナの雰囲気がします。建設されてから100年ぐらい経った建築物が多く、おそらく「老朽化による取り壊し」と「古典化による保存」の狭間から、ようやく古典の方に針が振れたような建築なのですが、成熟したスタイリッシュなオトナ文化の匂いがするのです。 ホテルというのは、考えてみれば面白いところですね。 ホテルに何を求めるかは各人・各ホテルによって強弱の差はあると思うのですが、「自宅に帰ったような、くつろぎ」も、「せっかく泊まりに来たんだから、という高揚感」も、どちらも必要な場所でしょう。 おそらく、出来た当時は時代の先端を行く「高揚感」なのでしょうが、今から見ますと、どのホテルもクラシックな装いとともに「懐かしさ」を感じてしまう。でも、そのゴージャスな雰囲気から高揚感といいますか、タイムトリップでもしたような浮遊感がするのです。 この、異なる二つの味が、巧妙に混ざったような写真展ですね。 まあ、写真の中にも、どこかの海岸の、あんまり高級ともいえなさそうなホテルで、しかも入り口付近で泊り客が食事をしている前を、ジョギングしている人が横切っていくような、どうしようもなく日常的な風景もありますし、パリやニューヨークの高級そうなホテルのラウンジもあります。 でも、全体的にちょっと日常と非日常が同居する感覚。1日の時間にたとえれば「たそがれ時」のように昼間と夜が交錯するような雰囲気がします。 そのスタイリッシュさは、やっぱり、資生堂ギャラリー的でもあるし、ハウス・オブ・シセイドウ的でもある。なかなかテーマの選定として、いいところに球を投げた写真展ですねえ。 しかも、アールデコと資生堂の高級化粧品の雰囲気も、どこか重なる感じもします。うーん、資生堂はファン作りが上手いなあ、と思ってしまう展覧会でした。 *会期中、作品の展示替えがあるようです。入場無料ですから、何度行ってもいいですねえ。