敵はパチンコ産業。
東京都現代美術館についてよく言われるのは、予算が削られてしまって、新規購入の予算がなくなってしまった、都の文化行政は無理解だ、といった批判です。 先日のカルティエ展での石原発言でご紹介いたしました小崎哲哉さんのコラムでも、こういった風に紹介されております。「東京都現代美術館は1995年に開館した。運営は、当初は財団法人東京都教育文化財団(その後、財団法人東京都生涯学習文化財団に名称変更)が、2003年からは同財団が統合された東京都歴史文化財団(歴文)が指定管理者として受託している。開館時に21億8000万円あった予算は、毎年削りに削られ、現在は7億5000万円ほど。大半は人件費や建物のメンテナンスなどの管理費に消え、展覧会予算は1億5000万円ほどしかない。展覧会は年間5本ほどだが、財団による独自企画はだいたい2本で、残りは外部の協賛を仰いで制作している。予算が減っているのは、言うまでもなく都が補助金を減らしているからである。」 確かにそのとおりなのでしょうが、考え方を変えれば、「管理費だけは出ている」と言えるのでは無いでしょうか。開館したのが平成7年。1995年ですね。 東京都主税局のHPを見ますと、都税収入は開館当時よりあまり変化はないようですが、歳入総額は減り続けているようです。歳入総額を、円グラフデータがある最古の平成10年と最新の18年で比較します。(単位:兆円)都税H10 4.62H18 4.50地方譲与税H10 H18 0.23地方特例交付金H10H18 0.16国庫支出金H10 0.48H18 0.34都債H10 0.53H18 0.36その他H10 0.87H18 0.58 もっと詳しい分析が必要だとは思いますが、詳細不明の「その他」以外に都債や国庫へ頼った収入が減っているわけですから、ねえ。健全になりつつある、というのかもしれません。 ちなみに平成7年の歳入総額は6兆8,257億円。平成18年が6兆1,720億円。ほぼ10%減ですね。 まあ、だからといって21億8000万円が7億5000万円に減らされるのは、確かにちょっと無茶だとは思います。財政が厳しいとはいえ、ちょっと減らしすぎでしょう。 ですが、東京都の財政が厳しいのも理解できます。このごろは復調にあるとはいえ、いままでバブル以降は世間は不景気でしたから。文化予算が削られるのは、まあ仕方がないといえるでしょう。 ただ、私がいいたいのは、補助金が無くても、展覧会が成功すれば購入資金を稼ぐことが出来る、ということです。現に、数年前には「新規収蔵コレクション」のコーナーがありました。「大人のための夜のミュージアムトーク」でキュレーターさんに聞いたところ、その年は展覧会が予定外に成功したのでお金があり、新規購入ができたから、とのこと。 努力すれば、自分で新規にコレクションを買うお金ぐらいはできるはずです。 海外の美術館(特にアメリカ)では、建物などは公的な助成があるものの、その他はすべて美術館が自分で稼ぎ出している資金で運営されているそうです。最低限の維持費を賄えるだけの補助金があれば、あとは自分の努力でなんとかしよう、という姿勢があって然るべきではないでしょうか。現に民間企業なら、何らかの経営努力をしているはずです。 予算がないなら、創意工夫でお金を集めて、収蔵品を買うことも出来るのです。 私だって、すべて「官から民へ」を支持しているわけではありませんよ。すべて民営化で解決する事はできないと思います。ですが、少なくとも公立だからといってあぐらをかいていていいはずがない。 補助金を増やして欲しい、という要望も分かりますし、コレクションを充実させる為には無論、補助金を増やす必要もあるでしょう。ですが、これから先も地方自治体からおカネを貰うだけの存在でよいのかどうか・・・。納税者の感覚として、最大限の経営努力をした上での新規予算獲得などならわかるのですが、まだまだ努力が足りていないと思うのです。玄関先に掲示されている「賛助企業」の少なさをご覧くださいよ。 せっかく日本テレビの氏家さんが館長ならば、日テレを使い倒すぐらい使ってもいいではないですか。テレビの力は大きいですし。タイアップ企画を積極的に推し進める、とか番組収録の協力をする、とか芸術関係の番組を制作してもらう、とか。深夜枠でもなんでもいいですから、氏家さんにくらいついて、バンバン、テレビとのタイアップを目指す、ぐらいの積極性が欲しいですね。 それに、何かと批判される「ジブリ」関係の展示。これは日本テレビの肝いりでしょうし、一部には日本テレビの「商売の為に都立の施設を利用させている」という批判もあるでしょうが、私は悪くないと思いますよ。確かに、美術館でやる意義は薄いかもしれませんが、すくなくともあれだけ多くの子供が楽しんでいる展覧会は、他に知りません。 私が経営努力が足りないとおもうのは、そういった「客寄せ」の企画に来てくれた人を、いかに現代美術館のファンにしようか、という視点が徹底的に欠如している部分です。もう、私から見ても、「この企画は、ウチとは別もんですから」とでも言いたげで、これではせっかくの企画も台無しです。 ジブリ関連の企画展に来た人の何%が常設展も見てくれて、そのうち何%が現代美術館のリピーターになってくれたのか。それを把握し、次への対策に生かしていくという姿勢が無ければ、単なるデパートの催事場と変わりません。 少なくとも、日本の美術関係の認識は、一般のビジネスの感覚から言えば甘いところが多いと思いますよ。 敵はパチンコ産業ですよ。少なくとも30兆円産業と呼ばれ、国民のポケットマネーと膨大な時間を浪費している最大かつ最悪の「敵」です。彼らから美術館へ、たとえ1割でも客を引っ張ってこれるなら、物凄いことがおきるはずです。 また、デートスポットとしての敵は「映画館」かもしれないし、新しいものに出会える場所としての敵であれば「ショッピングモール」や「デパート」かもしれません。 そういったところから客を分捕ってやろう、という獰猛さが美術館に欠けている。それだけ努力をしてもお金が足りないのなら仕方がありませんが、そういった姿勢も無く「補助金が減らされたから新規にコレクションできない」なんて泣き言を言うのは頂けません。 それは、いままでの私のブログでも何回か指摘しておりますし、「じゃあ、おまえがやってみろ」と言われたら、いつでも受けて立ちますよ。ええ。