2007年08月の記事一覧 | 映画ドラマ・千一夜

ランラン１８歳

総合点：86　お勧め度：★★★★　（構想・シナリオ）＝8.3　（せりふ・場面展開）=8.3 （音楽）＝9　（新鮮味）＝9　（インプレッション）=8.6●2004年度　韓国ドラマ　KBS　全16話　出演：ハン・ジヘ（ユン・ジョンスク）　イ・ドンゴン（クォン・ヒョクチュン）　ユ・ヘジョン（クォン・ソンア）　イ・スンジェ（クォン・ジンサ）　キム・ヘス（ジョンスクの母親）　パク・ヒョンジュ（イ検事）　イ・ダヘ（ムン・ガヨン）　●ユン・ジョンスクは普通の女子高校生。５人姫派を作って、今日も自由に遊び歩いている。勉強にも将来にもややこしい人生の問題にも、まったく興味ナシ。ともかく元気なのと喧嘩に強いのが何よりの取り柄だった。クリーニング店を営みながら一人手でジョンスクを育てた彼女の母親は、そんな彼女を心配している。或る日のこと、ジョンスクは街の一角で古い韓国の服装をしたハンサムな男性に出会う。すれ違ったときに彼が落としたのは、漢字で書かれた諸葛梁孔明の書だった。　その彼、クォン・ヒョクチュンは田舎の宗家の跡取り息子なのだが、今は検事庁に勤める真面目な28歳の検事だった。●コメディーなので、どんなお話かと思っていたのですが、韓国の田舎の風情やしきたりや、古式ゆかしきの服装などが見られ、大変勉強にもなるお話でした。話の進行が少し定型的な感じがあるし、日本語のテロップが、会話に間を合わせて出ずに二人分先に出てしまうので調子が変だったけど、全体の出来は好感が持て、面白かったです。●２８歳検事をしているイ・ドンゴンはまだ２４歳くらいに見えるし、ジョンスクだってどう見ても２５・６歳って感じですが、ま、しょうがないですね。二人を見ていると１０歳違いだなんて全然思えませんでした。●韓国の田舎の風情は落ち着きがあっていいです。昔、日本の田舎もああでした・・・。

燃えよドラゴン

総合点：90　お勧め度：★★★★+　（構想・シナリオ）＝9　（せりふ・場面展開）=9 （音楽）＝9　（画面構成）＝9　（インプレッション）=9.8●1973年　アメリカ映画　監督：ロバート・クローズ　製作：フレッド・ワイントローブ　ポール・ヘラー　鄒文懐（レイモンド・チョウ）　脚本：マイケル・アリン　撮影：ギルバート・ハッブス　音楽：ラロ・シフリン　出演：ブルース・リー（リー役）　ジョン・サクソン（ローパー）　ジム・ケリー（ウイリアムス）　アーナ・カプリ（タニア）　ボブ・ウォール（オハラ）　シー・キエン（ハン）　アンジェラ・マオ・イン（Su_Lin）　ベティ・チュン　（メイ・リン）　 Geoffrey Weeks（Braitwaite）　ヤン・スエ（Bolo)●あらすじ　南シナ海に浮かぶ要寒島・・・そこで開かれる大武術トーナメントへの招待状が、世界中の武術名人に送り出される。ロサンゼルス在の黒人のカラテの名手・ウィリアムス、同じくサンフランシスコのローパーも招待状を受け、香港へ向かった。　その頃、香港近くの田舎で行われたカラテ試合で、少林寺で仏の道と武術を勉強中のリーという無名の若者が優勝する。彼は、秘密情報局・ブレースウェートから、武術トーナメントに出場するよう要請されるが、静かな修道を望むリーはそれを断わる。　しかし、要寒島の支配者＝ハンは、かつては少林寺の修行僧であったが、この寺で学んだ武術の知識を今は自分の利益のために悪用していることを師から教えられ、父からは、妹のスー・リンが、ハンの手下・オハラに殺されたことを聞かされ、彼は遂に出場を決意する。●感想　その当時、一世を風靡したカラテ映画の元祖とも言える作品です。物語は大変巧妙に作られていて、リーが修行僧であること（自利をむさぼろうとするのではなく自己修養のために武術を学んでいる）、世界中の武術名人が集まる大会が開かれること、しかもその場所が怪しい要寒島であること、協力者はいるが、無名の達人が単騎でその場所に乗り込むこと、基本的には武器を使わずに敵を倒すこと、倒すには大義名分があること、麻薬製造密売をする悪人が登場すること、屈強な達人達が次々倒される中、小柄ではあるが鍛えに鍛えられた肉体を持つ青年が、他の者では真似の出来ない圧倒的な不思議な動きで一瞬に相手を倒すこと、時には空を舞うこと、独特な声を発し、戦うときは物鋭い目つきをする・・・。挿入されている音楽も独自の領域にあり、冒険活劇にあるべきほとんどの要素が盛り込まれた一種のカリスマ映画と言える作品でした。（００７的要素、ドラゴンボールの世界一武闘会を想起させます）●その頃余りにも有名になったので、見ていない人はほとんど無いのではないかと思いますが、登場した時点でアクション映画として完成の域に達していたこの映画、よく出来た娯楽作品として一度は見ておくべき作品かと思います。●公開当時、僕はまだ学生で、ものすごく驚いた記憶があります。何とも、ブルース・リーの肉体の出来の素晴らしさに感嘆しました。鍛錬の賜物！　でした。にほんブログ村

墨攻

総合点：89　お勧め度：★★★★＋　（構想・シナリオ）＝9　（せりふ・場面展開）=9 （音楽）＝8.5　（画面構成）＝9　（インプレッション）=9●2007年度　中国・日本合同映画　監督：ジェイコブ・チャン　プロデューサー：黄建新（ホァン・チェンシン、Huang Jian Xin、中国）　王中磊（ワン・チョンレイ、Wang Zhong Lei、中国）　徐小明（ツイ・シューミン、Tsui Siu Ming (Siuming Tsui)、香港）　李柱益（イ・ジュイック、Lee Jooick、韓国）　井関惺（日本）　撮影監督：阪本善尚　編集：エリック・コン　アクション監督：スティーブン・トン・ワイ　音楽：川井憲次　原作：能見賢一　出演：アンディ・ラウ（革離）　巷淹中（アン・ソンギ）　ワン・チーウェン（梁王）　ファン・ビンビン（逸悦）　ウー・チーロン（子団）　チェ・シウォン（梁適）●紀元前３７０年頃の中国。趙と燕の国の境にある梁城は危機に瀕していた。趙の大群が燕に向かって進軍し、その際に邪魔になる梁城を占領しようとしたのである。　梁の王は、「非攻を唱え、城と、ひいては民を守ることを専科とする墨家」に応援を頼む。　その応援はなかなか来ず、趙の大群が現れた頃になって、たった一人・革離という男がやってくる。●墨家は紀元前５００年頃に起こった墨子を代表とする非攻を唱える集団です。この集団に属する者は、大国の王のところに単独で出かけて行って非戦を説いた、というほどの人たちだったそうです。●シナリオはよく考えられ、梁城を取り囲む趙軍の大部隊に迫力があり、また、城を守る手立てが納得の行く展開になっていて、見ごたえがあります。男として凛とした迫力がある革離に、王の息子・梁適が心を開く辺りも、矢の名手・子団が彼を指揮官として仰ぐあたりも、また、女性兵士の逸悦が男としての彼を慕うのも、自然な展開で小気味良いです。ただ、後半になって、趙を撃退した功績に感謝した民衆の心が革離に傾き、「彼が国を乗っ取るのでは」と梁王が疑い、考えるのは、少し現代的な考え方では？　と感じました。　それに、捕縛されようとする革離を梁適が逃そうとするのですが、大切な息子である梁適が矢の射程の範囲にいるのにも拘わらず沢山の矢を射、大切な息子を死なせてしまう行は小説的な「華を作る書き方」で、ちょっと違うような気がする。（馬で追いかければ、革離と民人数人なんか簡単に捕まえられる）　中国人はメンツを非常に重んずる国民だそうです。国を守れなかった梁王が感じているのは、王としてのメンツであるような気がしているのですがいかがでしょうか？　よって、革離という真の勇者は許せない・・・。●時代はその後、秦の始皇帝の登場という華々しい展開があり、墨家も墨子思想も消えて行きますが、非攻・専守を唱え、どんなに弱小の国にでも、自らの命をも省みずに助けに行った墨家は、やっぱ偉いです。墨子様も偉い。ときを経て、現代の日本は、この方法で国を守ろうとしているように思えます。自衛隊＝自らを守る墨家的集団＝スターウォーズのジェダイだとは、思いませんか？　

ゲド戦記

総合点：87　お勧め度：★★★★　（構想・シナリオ）＝8.5　（せりふ・場面展開）=9 （音楽）＝9.5　（画面構成・絵のよさ）＝9.5　（インプレッション）=8.7●2006年　日本アニメ　監督：宮崎吾朗　原作：アーシュラ・Ｋ．ル＝グウィン　声の出演：岡田准一（アレン）　手嶌葵（テルー）　田中裕子（クモ）香川照之（ウサギ）　菅原文太（ハイタカ＝ゲド）　風雪ジュン（テナー）　　●多島海世界「アースシー」では、竜が人間の住む東の海に出没し共食いを始めるなど、異変が起こりはじめていた。美しかった国エンラッドでも、羊や牛が疫病に掛かり作物が実らないなど異変の兆候が現れ始める。そんな中、エンラッドの王子アレンは、国王である父を刺して、国を飛び出してしまう。行く宛の無い旅を続けるうちに、大賢人・ゲドとして世界の異変の原因を探り続けているハイタカという顔に傷のある男に出会う。２人は旅を続け、ハイタカの昔なじみ・テナーの家へ身を寄せるが、テナーと共に住んでいる顔にやけどを負った少女・テルーは、ときどき自分の心を制御できずに自暴自棄となるアレンを、嫌悪するのだった…。●久々のジブリ作品です。宮崎駿監督のご長男・宮崎吾朗さんの初回監督作品とのこと。****************************************************●もう少し違うストーリーの作品かと思っておりました。前宣伝では竜がかなり大きな比重を占めているという印象だったし、宮崎さんのアニメでは飛翔シーンが非常に優れているので、今回もそういう感じかと・・・。●アニメも昨今は凄い数が作られているようで、ストーリーも中で使用されるアイコンもアイデアが使い尽くされ始めている気配があります。今回このドラマを見終わった印象としては、そういう感想が一番目に来てしまい、この業界も競争で、人をあっと言わせる素晴らしいネタを発掘するのは至難の業なんだなあ・・・、と思わずには居られませんでした。●以下、細かな感想です。　・物語は終始、重厚な雰囲気が包み、これはこれで非常によかった。特に良いのは音楽で、場面場面によくマッチしているし、空を描いている部分、夕焼けを描いている部分、海と島を描いている部分などでの深い印象は特筆に価すると思います。なかなかこういう重厚感を表現するのは難しい。　・今回のストーリーだと、何故に竜が登場するのか、理解が出来ません。竜の持たなければならない役割が明確ではないし、最後まで一方の主役、というポジションがない。原作にはその辺りがあるのかもしれませんが、竜君を表舞台に出すシナリオに思えませんでした。　・また、アレンが父親を刺すのですが、その理由が最後まで明確にならない。また、物語の最初での父親との葛藤もしくは、原因不明の理由によってアレンが行動してしまうなら、それに何かの秘密性を持たせて進行し、後で解決が計られないと、中途半端な印象が残ります。　・街を表現する絵は非常に素晴らしかった。この絵が描けるスタッフの力量はスーパー・イクセレントです。最初のエンラッドの街も、後、登場する奴隷市場のある街も。この絵を見るだけでも、価値はあると思います。　・物語の途中で大賢人・ハイタカが盛んに世界の均衡が崩れ始めている、というのですが、それについての解明が最後までなされません。これは困ります。物語の大事な一本の線のはず。　・また、最後、クモという魔法使いが永遠の命を欲して破れ、老いて行くのですが、この終わり方はもういろんなアニメで試みられており、新鮮味が今ひとつ。（この作品のアニメ化はもっと早くに行われるべきだったか？　原作読んでないので詳細は分からないのですが・・・）　・ハイタカとテナーという女性の描き方は旨く行っていて、見ていての安心感があります。どことなくアラン・ラッドが出ていた「シェーン」を思わせました。●インターネットでの投票では厳しい点が多かったです。でも、作品単体で考えると、それほど悪いとは思いません。音楽も背景の画も、場面場面の進行も緻密で、そこそこ完成していると思いました。　

王と鳥

総合点：89　お勧め度：★★★★＋　（構想・シナリオ）＝9　（せりふ・場面展開）=8.2 （音楽）＝9.5　（画面構成・絵のよさ）＝10　（インプレッション）=8.5●1980年　フランス・アニメ　スタジオ・ジブリ配給　監督：ポール・グリモー　脚本：ジャック・プレヴェール　音楽：ヴォイチェフ・キラール　原作：アンデルセン童話「羊飼い娘と煙突掃除人」●砂漠の中に建てられたタキカルディ王国。目も眩むような美しい高層の宮殿が空に伸び、そこに住んでその国を支配しているのはシャルル３＋５＋８＝１６世という我侭な暴君だった。　この国の権力の象徴である彼は実際は無能な男で、無闇に放つ銃撃ちと、自分の肖像を描かせたり自分の彫像を沢山作らせるのが、ほとんど唯一の仕事であり気晴らしで、気に食わない部下は、スイッチ一つで奈落の底へ突き落とす。今日もまた、銃の餌食として城に棲む鳥の子供を罠で捕らえ、それを殺そうとするのだが、すんでのところで、賢い鳥の父親が子供を救い出すことに成功する。　味方がいない彼は、夜は宮殿の最上階にある秘密のアパルトマンで眠る。そこには２枚の絵と、馬に乗った賢者の彫像が飾られていた。絵に描かれているのは、若い羊飼いの娘と、梯子を持った煙突掃除人の少年。そのそばに王様は、画家に描かせたばかりの自分の肖像を持ち込んで飾るが、やがて遣ってきた夜のこと、絵の中に描かれている王様が羊飼いの娘に恋をし、結婚を迫るのだった。●このアニメは、スタジオジブリ、つまり現在の日本で最も有名なアニメ工房で活躍する宮崎さんと高畑さんのアニメ製作の原点ともいえる作品だそうです。実際、その後の「カリオストロ」の中の城の絵・構想や、「ラピュタ」の中で出てくるロボット、また、空飛ぶトンボ型輸送機の動き、海賊の乗っている船など、明らかに影響が見られ、また「ナウシカ」のかの有名な音楽も、この映画の主題となっている曲の転調の仕方によく似ているところがあり、大きな影響を及ぼしている事は容易にうかがい知れます。　高畑さんは、「少なくとも、もしそれを見ていなければ、アニメーション映画の道に進むことはなかった」と語っていますし、宮崎さんは、最も影響を受けた作品を聞かれ、「ポール・グリモーの『王と鳥』をあげないわけにはいかない」と答えているそうです。※　詳細は「王と鳥」公式ホームページを参照ください。　http://www.ghibli-museum.jp/outotori/movie/*******************************************●さて、感想です。　私達はすでに先に「ナウシカ」や「ラピュタ」に出会い、その構想の壮大なことと表現の豊かなこと、細やかな感性で描かれた緻密な画面や構成の妙・卓抜な出来栄えの絵に出会ってしまっています。そのことが、ひとつの重要な事実で、順番を時代の通りに見ていれば、ここに書く感想も全くちがったものになるのは仕方がないことかと思います。今までの諸稿で、私はナウシカを１００点の作品として挙げているし、ラピュタも出来栄えが素晴らしい事は既に述べています。それらと比べると、作品の完成度、という点からも、物語進行の速度感からも、間の取りかたから見ても、この作品は今ひとつ「未完」の感がするのです・・・。　以下、少し細かくなるけれど、箇条書きにしてみると・・・。・最初の場面。一方の主人公である鳥の登場の仕方は、シェークスピアの頃の物語案内人（紹介人）の遣り方で、現代には少しまどろっこしい遣り方・・・。・暴君で実は無能なブサイ王様が二番目に登場するのですが、この描き方・説明の仕方は秀逸です。（この絵を見るとピカソやトランプに描かれた王様や王妃、王子を連想させます。トランプの絵、素晴らしい出来ですよね・・・）　また、彼の部下達がほとんど皆同じ顔をしていて、強い権力に従うタイプのステレオ的表情をしている。この描き方も素晴らしい。・子供を罠に掛けられ、それを救わんとする鳥さんが、傲慢で生命を何とも思わない王に向けて言うセリフは、最初から物語の主題に切り込んでしまっているのですが、物語の構図としては急ぎすぎで、もう少し後から示したほうがヨカンベカナ？　と。　物語の主題を社会問題として持ち、作品として描こうとするフランス流エスプリは理解できるのですが、ここでの時間はたっぷりあるはず。最初は徐に進めるのがベターかと。・王の宮殿・・・。モンサン・ミシェルを思わせる絵は出来が大変良く、王の部屋から逃げ出した煙突掃除夫と羊飼いの少女が塔の先端に近い場所に座っている辺りの絵の構図、背景も美しいです。また、塔の縁を移動する際の人の動き・・・。谷川岳一の倉の急峻な岩場を歩くとき、人間はほとんどあの恰好です・・・。・銃の標的としていた鳥を逃がし、自分の秘密の部屋へ戻る王の乗るロケット様の移動部屋。また、王座がホバークラフト様の動きで移動する発想！　逃げた二人を追って、水の上を追跡するときの乗り物の動き、それに、空を飛ぶ船の存在や、こうもりライクの羽と傘で空から舞い降りる不気味な表情の警官たち・・・。発想が素晴らしい！・宮殿の下には下層民の町があるのですが、そこに入った煙突掃除夫と娘の出会う人々を含め、ここに使っている時間が少し短い。大事な場面なので、僅か書き込みが足りないような感じがしました・・・。・囲われているライオンを前にした鳥さんのセリフ。生物学的には無理があるような・・・。「ライオンさんのために娘が育て守っている羊が、オオカミさんに取られてしまう・・・」ってのは、ちょっとこなれていないセリフじゃないかと。・おじさん操縦のロボットの登場・・・。物語と脈絡がないのだけれど、発想は分かります。もう少し時間を割いて、旨く描きたいところ。最後、鳥さんがその操縦桿を乗っ取って、城を破壊して回るのですが、鳥さんはここでは貧しく真面目に生きるものの味方であるはず・・・。無闇な破壊は理に適っていないと思うのですが・・・。・ロボットの絵は、秀逸です。また、最後の場面で砂漠に残される廃墟と動かなくなったロボット・・・。一服の絵なのですが、ただ、王と鳥、という主題で進めた場合のエンディングとして、ふさわしいのかしらん？●とまあ、そんな訳で、物語進行のまだろっこしい部分を含め、私にはこの作品はどこか未完・荒削りのまま世に出た、というような思いが終始感じられてしまいました。●現代という時代は文明が成熟し、ほとんど完成・完熟（爛熟）の時に来ているように思われます。３０年近く前に実現していた高層住宅も高速列車も大勢の人を運ぶ飛行機も何もかも、あれから進歩はほとんど止まっているように思いませんか？　生活に必要なものは各家庭にはほとんどすべて揃っていて、今新たに欲しいものがない。変な話、子供に「欲しいものは何？」と聞くと、「お金！」という返答が帰ったりするのです・・・。　昔は素朴な交易システムで世の中が成り立っていたと思うのですが、いつの間にか資本主義も行き着くところまで進んでしまい、町や国、更には地球そのものまで、お金で換算するような時代になってしまっている。今、この世界に生きている人々は、何かを売ってお金に変えないと生きて行けないし、場合によっては必要じゃないモノ、いやむしろ害になりそうなものでも開発して他人に売りつけないと生きてゆけないような世界になってしまっています。　アメリカを代表選手とするこの経済システムの中では、金を所持していない者は奴隷の立場に落ちてしまう。システムから剥がれ落ちないようにと、人は誰も必至なのです・・・。●話、変わります。　この物語では、若い娘の気を惹けるのは若い青年で、無論、これが自然というものです。権力を持っていても人柄に優れず、容姿も優れない王の孤独は見ていて哀れなのですが、実際は振り返ってみると、この王と同じ哀れさを持たざるを得ない若者も、実は多いのではないかと思うのです。テレビの発達と情報網の拡充で華々しい情報が毎日手元に届き、美人だったり才のあったりする所謂スター達の活躍・輝きが、溢れんばかりに送られてくる。同じ人間として生を受けてきたのに、遥かな違いとして認識されてしまいます。自らの存在の小ささを毎日のように知らされるのは、傷つきやすい人間にとって、或る意味大層辛いこと、そうは思いませんか？　ここでの主人公は、若い娘と煙突掃除人ではなく、孤独な王様でしょう・・・。私のように歳を取ってしまい、これからの未来に展望がなくなるのを感じ始めると、この王様の持つ一種解決しがたい焦燥感も、他人事ではなしに理解できたりするのです・・・。●物語に帰って、原作となったアンデルセンのお話を紹介しましょう。おおよそ以下のものです。「あるお屋敷の古い木製の棚に、陶器で作られた羊飼いの娘と煙突掃除の男の子の置物が飾られていた。少し離れた所には、首がかくかくと動くしかけの中国人の人形の置物があり、角の生えた不気味な男の彫り物もあった。羊飼いの娘と煙突掃除の男の子は仲がよく、幸せな毎日を送っていた。　ところが、中国人人形は羊飼いの娘を制して、角の生えた男と結婚させようとする。それを知った娘は煙突掃除の男の子に、連れて逃げてくれるよう頼みます。　夜中、２人は煙突を使い屋根まで上るのですが、初めて目にした空、街並みの余りの広さに娘は怖気づき、泣いてしまいます。　２人は外の世界へ行くことを諦め、やむなく元の場所に戻ろうとするのですが、幸いなことに、そこにいたはずの恐ろしい中国人人形は、二人を追おうとして棚から落ち、割れて壊れてしまっていたのでした。●物語は素朴です。お屋敷の小さな木製の棚の中＝これが二人の一生を送るべき世界そのものです。屋根に上がって世界の広大なことを知った娘は、歓喜して其処に飛び出そうとするのではなく、人間として娘として、もっとも素朴な対応をする。自らの生きるすべ、自分の力量をあらかじめよく知っているかのように思われます。　未知のものを知ろうとする脳の貪欲さのせいで、人類は巨大な文明を築き、かつては考えられないほどのエネルギーを消費しながらそれを維持しようとしています。また、新たな大陸に進出をして人間主体の生活空間を作り上げようとする。けれど、私達の棲んでいる地球は、実際はとても小さいのです。　これからの文明の行く末・・・。自らが発明し操縦しているつもりの巨大経済システム（地球人類生存のための巨大全体システム）によって、或いは地球温暖化が原因かもしれないし、或いは資源の奪い合いによる戦争が原因かもしれないけれど、いつかはこの物語のエンディングにあるように、地球そのものが人の誰も棲まない・棲めない廃墟になって、人類の物語は静かに終わるのかもしれません。

映画ドラマ・千一夜