・・・机に座ったまま、修行僧のごとくじつとしていた。でも本当は、寝てしまっていただけだ。
いつも、うな垂れて歩いている訳ではないが、自信もさほどないので、下を向いて歩くことが多い。人は、多分猫背だからなんだろうと思うのだろうな、と思う。
雨の中、地面に張り付いている1,000円札を見つけた。引っ剥がして、小心者の私は、周りを見渡す。すると5メートル先にまた1,000円札が落ちていた。
今まで、拾ったお金より落としたお金の方が莫大に多い私であるが、子供の頃にも当然落としたことがあり、「あんたどこで落としたの」と母親に詰め寄られ、子供心に、「どこに落としたか分かっていれば、すぐに取に行くんだけどなあ」、と大人びたことを考えていた。
自転車でタイを縦断していた頃、アントン市を越え、エビの養殖地帯を抜け、小さな橋を渡った時、道端に光るものがあった。車以外は、地元の農民が時々歩いている程度の暑い時間帯、そこに光るのは1バーツが3枚。
思わず、小銭を拾い、太陽に向けて、日焼けで皮の剥けた手を挙げた。これで「バ-ミーナム1杯食えるぜ」と。(当時バンコクで1杯10バーツだったバーミーナムが村のわき道の屋台では3バーツで食えた)
自転車の網カゴのラジカセからはキンクスが流れていた。
落としただけでなく、貸したり借りたりしたお金のことも、人がいいので、どちらも良く憶えていない。
これでも、民法を勉強して、何がしかの資格も取っているので、弁護士程度には詳しいのであるが、宿泊代金や飲み屋のツケは1年、商売同士または商人と個人のお金の貸し借りでは5年、個人同士のお金の貸し借りでは10年で時効になる。それを食い止めるには、ひとつに、時効を引き伸ばす為に相手に確認する必要がある。相手に返す意思があり、たとえ、持ち合わせの100円でも返してくれたら、そこで、また時効が始めから始まるのである。
働き始めた頃は、飲み屋のツケは飲みに行く度に、「これ前の前の分ね」とか言って払っていたので、しっかり相手の術中にはまっていたことをいまさらにな気がついた。
よかったよかった、もうツケは長らくない。というより、ツケをするほど飲みに行くこともなくなった、めでたしめでたし。
今からは、ちゃんと、横になって誠心誠意寝るつもりだ。