ソクラテス・メソッド
ソクラテスの助産術というのは、かれの母が助産婦だったことに由来します。かれは問答をつうじて、自分はほんとうは何も知らないという「無知の知」に気づかせようとみちびきました。法科大学院(高等司法研究科)でも、ソクラテスメソッドというのを従来の受験指導校とはちがう指導のあり方として打ち出していますが、いったい引き出すものを内に持たないロースクール生からなにを引き出そうというのでしょうか。法科大学院設立・司法試験改革の理念にかなうような天才は、たしかにいます。法学部出身とはことなるユニークなバックグラウンドの持ち主がばりばり勉強して、なみいる既習者たちをあっという間に抜き去っていく例は、いくつか聞くはなしではあります。でも、そういう人たちは、たとえば塾で勉強し、旧試験でも受かっていったはずの人たちだと思います。で、なにが言いたいかというと、ソクラテス・メソッドといって対話からなにかを引き出すことよりも、すくなからぬロースクール生にとっていちばん必要なのは知識を身につけることなのではないかということです。「占有改定」もわからない法務博士を卒業させ、受け控えの肩叩きをしてまわる状況は、かつてギルド的といわれた法曹の世界をその入り口でいっそういびつにしているような気がいたします。