ホームスクールをはじめたきっかけ(その1)
ゆっぴーは、小さいころから、ちょっとユニークな子でした。幼稚園では、好きなおもちゃで遊び、一定の時間になると、他のおもちゃに移ったり、今度は座って先生の話を聞いたりします。でも、3歳で、幼稚園に入った当時、ゆっぴーは、こだわりが強くて、一つのおもちゃで遊び始めると、ずっとそれで遊んでいたくて、よく泣いていたそうです。先生のお話や読み聞かせが始まると、一人うろうろと立ち上がり、お気に入りのおもちゃの所へ歩いていくこともありました。5歳のころ、えんぴつ、けしごむ、えんぴつ、けしごむ、のパターンを書いたりする時には、「えんぴつが、みんな同じ向きではつまらないから」とえんぴつを立てたり、横にしたりして書く子でした。でも、まさか、この子をホームスクールで育てることになるとは。まったく当時は、そんなこと思ってもみませんでした。ある日、美容院で手に取った雑誌に、ホームスクールを実践している家庭のことが書いてありました。ホームスクールは、アメリカなどでは盛んだと聞いていましたが、自分ではとてもできないだろうと思っていました。「でも・・・もしかしたら、ゆっぴーのようなユニークな子には、画一的な学校教育より、ホームスクールの方が合っているかもしれない。」雑誌に載っていたホームスクールをサポートしている学校機関の番号を控えておくことにしました。当時、ゆっぴーの小学校への入試が迫っていた時期でした。ゆっぴーとかりんの通っていた幼稚園は、ピアジェの発達段階理論に基づいて教育していることで知られています。音楽教育や、情操教育も重視され、小学校でも、教科を超えた総合的に教育が行われています。幼稚園も、小学校も、1クラスが20人以内の少人数制。でも、幼稚園から小学校へ上がるときに入試があるのです。ゆっぴーは、少し言葉の面での遅れがあったので、まず、その入試に受かるかどうか、ちょっと心配でした。たとえ、入試に受かったとしても、その後、小学校でついていけるかどうか。入試に受からなかった時のことも考えて、別の学校も見に行きましたが、通学できる範囲内で、ここだ、と納得できるところはありませんでした。そこで、雑誌で見た学校機関に、連絡を取り、ホームスクールで教えている親たちのためのセミナーを見学させてもらうことにしました。また、教会の掲示板に貼ってあったホームスクールのセミナーにも出席してみることにしました。そこでは、様々な教材を見せていただき、ホームスクールの良い点について、教えてもらうことができました。もしもゆっぴーが合格しなかったら、その時は、ホームスクールで育てよう、そう思うようになりました。それが、私とホームスクールの出会いでした。入試の日がきて、数週間が経ち、通知が届きました。ゆっぴーは、合格していました。合格したのだから、それはそれで嬉しかったのですが、なんとなく不安が頭をよぎります。当時は、すでに、かりんがその小学校に入っていましたから、1年生になると、急に難しい勉強をすることになるのは、わかっていたからです。そこで、教頭先生にお話に行きました。この教頭先生は、ゆっぴーが3歳だったときの担任です。「合格したようですけど、ほんとうに小学校に入って、やっていけるでしょうか。」先生はこう言われました。「6歳児知能テストを幼稚園でやりましたよね。その結果を確認してみると、入試の結果と対応していることがわかりますよ。ゆっぴー君の知能テストの結果、覚えてらっしゃいますか。」知能テストは、言葉の面だけ遅れがあったものの、その他のテストは良かったのを覚えていました。「それなら、大丈夫じゃないでしょうか。7歳になって、急に成長する子もいますから。」教頭先生はそう言われました。たくさんの子どもたちを見てこられた教頭先生の言葉なので、それなら、ゆっぴーも大丈夫かもしれない、そう思いました。ゆっぴーは、晴れて小学校1年生になりました。ところが、小学校では、大変な苦労が待っていました。まず、最初の週から、January, February, March...と、月の名前を覚えていかなければなりませんでした。幼稚園では、スペルミスは、当然通る発達段階ということで、容認されていましたが、小学校に入ったとたん、スペルの間違いはXにされました。月の名前の次は、曜日の名前(Sunday, Monday, Tuesday...)。ゆっぴーは、月の名前も、曜日の名前も、その順番がまず覚えられませんでした。スペルなんて、もってのほかです。まだ、3文字の言葉(cat, dogなど)が、やっと書ける程度のゆっぴーに、Januaryのスペルなんて、とても覚えられません。英語のほかに、フィリピン語でも、月の名前と曜日の名前を覚えなければなりませんでした。そして、大量の黒板の板書。授業の内容もそうですが、宿題の内容もノートに書き写さなければなりません。ゆっぴーは、ノートに板書を書き写すことが苦手で、字が滝のように、左上から右下へと、流れているノートを持って帰ってきました。ゆっくり書けば、きれいに書けるけれど、時間内に書かなければ、消されてしまう。時間内に書こうとすれば、自分でもまったく読めないような字になってしまうのでした。毎日これでは、宿題さえわかりません。学校から帰ってくると、すぐ、ゆっぴーのノートをチェック。宿題が書き写せていないときは、学校へ電話して、先生に宿題を聞く日々が続きました。担任の先生に話しを伺うと、ゆっぴーは授業の内容はよく聞いているので、わかっているそうです。テストも、他の子はペーパーテストでも、ゆっぴーだけは口頭テストにしてくださっているといいます。席も一番前にしてくださって、書くものがある時は、ほとんど先生がつきっきりでやっていると。板書ができないので、同じクラスの子をパートナーにして、時間内に書けなかったときは、見せてもらうようにしてもらえないかと、先生にお願いしたら、最近もうそれを始めましたよと言われました。ところが、それが裏目に出たようです。ある日、学校へ迎えに行くと、先生にこう言われました。「最近、ゆっぴー君の様子がおかしいです。家では、変わったことがないですか?何かストレスとか、環境が変わったとか・・・。」家では、全然変わったことがなかったので、驚きました。ゆっぴーは、学校では、ずっと怒ったような様子をしていて友達が消しゴムを取ったくらいで、すぐ怒る。授業中も、ずっと一人で紙飛行機を作っていると。飛ばしたりはしないけれど、ひたすら、紙飛行機を作っているのだと。ゆっぴーに聞いてみたら、休み時間に、友達に遊びに入れてもらえないのだと言っていました。ノートを貸してくれる子が、率先して、ゆっぴーはおかしい。他の子にできることが、ゆっぴーにはできない。遊びも、同じものはできないだろう、と仲間に入れてくれないのだと言います。先生とそのことを話してみたら、学校でそんな様子は見かけたことがないと言われました。注意して見てみます、と先生は言われましたが、だんだんと、家庭でも、ゆっぴーの態度が反抗的になってきました。そのころ、ディスレクシア(読字障害、読み書き障害)について読む機会がありました。知能は普通か、それ以上だが、読み書きが苦手。7歳以上になっても、鏡文字が多い。スペリングが苦手。月や曜日の名前、物の順番が覚えられない。右と左の方向を間違えることが多い。ゆっぴーにあてはまることが多くありました。もしかしたら、ゆっぴーは読み書き障害なのでは?なんとかしなければ、このままでは、この子はどんどん落ちこぼれていくばかりではなく、気持ちまですさんでしまっている。ゆっぴーの笑顔を取り戻さなければ。どうやったら、この子がこの子らしく、楽しく学校へ行けるようになるのだろう。そこで、知人の児童発達医に、予約を入れることにしました。(続く)