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南カリフォルニアの青い空

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2021.06.30
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 ブルックは小学校1年生位から、模型の飛行機を組み立てて飛ばしたり、リモコンで車をはしらせたり、自転車でも直してしまう器用な子だった。中学になるころは、近所の洗濯機やら、ラジオ、ミシンなどを直して(もちろん無料で)いたので、おばさん達に可愛がられていた。勉強は、お姉さんのストレートAにはかなわなかったが、それでもA、Bの成績で、算数と科学は高校で大学コースをとるほど秀でていた。ヒョロヒョロ細くて、静かなる男だったが、下級生にも親切だし怖いもの知らずで、肝っ玉は太いことでも知られていたので、怒らせたらどう出るかわからない不気味さで、デレックも近づかなかったのだと思う。(実際には私自身、彼が怒ったのを見たのは一度しか覚えてないくらい喧嘩もしない、とっても大人な子であった)

 デレックの評判は学校中の問題だったらしいが、現行犯をみなければどうしようもないので、大人達も頭をかかえていたわけだ。実際問題としてデレックは学校中で一番背が高くなっていたのも大人達が近寄りがたかった理由の一つだったのであろう。もう一人、デービッドという背の高い目つきの悪い同級生がいて、その二人でグルになってイジメをやったから、学校中で恐ろしがっていると聞いていた。

 たまたまデービッドの母親がPTAの役員をやっていたので、直接話をしたら「いい子なんだけどね、自信のない子でね、勉強もできないし、特技もないからね、主人と飛行機のパイロット・ライセンスをとらせようかと話し合ってる」というのだった。お父さんが民間航空のパイロットで、デービッドも飛行機が格別好きだったらしい「グッド・アイディア!」と私は賛成した。

 デービッドの態度が急に変わりだした。まず、目つきが和やかになり、前は顔を背けていたのが「ハーイ」というようになり、高校前にパイロットライセンスを取った頃は別人となり、(パイロットのライセンスに年齢制限はないそうだ) デレックから離れて行ったし、別の高校に進学した。

 我が家を訪ねてきたのは、その頃のデレックである。玄関のドアをあけると、入口の上に頭をぶつけそうな巨人が背の低い子分と立っていた。

「ブルックいる?」と、つっけんどんに言ったので、スワ何事?と思ったが、外側でまたせといて、三階の息子の部屋にいって、「デレックがあいにきた」というと、「へ~?」と首を傾げながら降りて来て、私に聞こえないようにドアを閉め外に出てから、すぐに入って来て、
「壊れた自転車をなおしてくれだってさ。だから、直してやるから下のガレージ前で待ってろといった」と、下に降りて行った。我が家は三階建てで、二階、三階が住処になっていた。(この百坪近い家も自分達の手で土台から全部建てたのだが、その話は又別にするか、しないか(笑)

 その日から、デレックはブルックの子分になり、ブルックのいう事をなんでも「イェス・サー」と聞くようになったのだ。それだけでなく、宿題の問題がわからないと、息子が彼の家に出かけて行って手伝ってやっていたから、デレックの母親から電話がきて、「礼儀正しくて、ハンサムで、何でもなおしてくれて、何という素敵な息子さんでしょう。忍耐強く、デレックの勉強を手伝ってくれて感謝してます。息子にブルックの爪の垢をせんじてのませたい」と言ったから、「あははは、息子らしい。あの子は、小さい頃から壊れたものがあると、すぐ直したくなるのですよ」と笑ったが、彼女の名前もその時初めてしった。学校でもブルックと一緒に行動しはじめてから、デレックのイジメが完全におさまったと、皆喜んでいた。
 
 高校に入ると、ほぼ毎晩のように我が家にきて夕食を一緒にするようになり、週末は泊まったりしていた。食事が終わると、自分の食器は自分で流しまで持って行くことになっていたので、デレックもちゃんと真似するようになった。又反対にデレックの父親がヨットの小さいのをもっていたので、時々招待されて、セーリングなども教わり、夏休みには、隣町のニューポートで、デレックと一緒に小中学生にサボット(一人乗りのオモチャのようなヨット)のコーチをするアルバイトをしたり、射的場にいってライフルやピストルを射撃などすることも、デレックから教わった。つまり、お互いに教えあっていたのである。

 やがて、彼の両親が離婚して、デレックがイジメを始めた理由もそこにありそうだと分かった。どうやら二人の毎日の喧嘩から逃れるために、我が家にきたようであった。

 デレックは繊細な子で心優しく親切なので、だんだんやさしい目つきになり、高校にはいったら友達も結構出来たが、相変わらず勉強の方は落第点ではない程度であった。高校最後の夏休みには、昔近所に住んでいたジェーソンという友達に会いに、サウス・ダコタまで車に寝袋をいれ、一月くらい二人で旅をした。

「途中でタイヤがパンクしたり、エンストおこしたけど、ブルックがいたから問題なし」とデレックがいえば、
「ジェーソンの家のトイレ、凄かったなあ。そしてあの狂犬!」と言って、爆笑しながらブルックが、落書きだらけの壁に、トイレの蓋をあけると化け物が口をあけてるような写真とか、小さな犬が目を光らせてタオルを噛みついて引っ張りっこしている写真とか、
「これ、ジェーソンと三人で、誰が一番遠くまで飛ばせるかやってるところ」と、後ろ向きにおしっこしてる写真とか見せながら、さも男の子らしく、でも小学時代にキャンプ場からくれたハガキのように、こまかく旅の話をしてくれた。

 その兄弟のようになった二人が、分かれる時がついに来た。

(続く)





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最終更新日  2021.06.30 22:54:44
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