2011年10月の記事一覧 | 本と映画と食事とあひる

結構、怖かった映画『正体不明　ＴＨＥＭ』

　【中古】美品！正体不明 THEM-ゼム-／オリビア・ボナミーDVD／洋画ホラー今日の朝食；大根とにんじんのぬか漬け、がごめ昆布とねぎの味噌汁、おにぎり。　荒木飛呂彦の本に紹介されていた映画です。なんとなく気になって観てみました。実話が元になっているというのでレビューも少し読んだのですが、前知識がない方がよいという忠告を信じ、それ以上は調べずに観てみました。　感想。確かに何も知らずに観てよかったです。実話と聞いていたので、幽霊オチとかポルターガイストオチではないんだろうなあなんだろう？と考えていたんですがこうくるか！！といった衝撃がありました。　近所のお店には置いていなかったので楽天レンタルで借りましたが、なんとなく実店舗にない理由が分かった気がします。　一度観ると衝撃があるけれど２回観たいとは思わせないないようですね。　ある意味、本当に怖かったです。ただ、気になったのはルーマニアで実際に起こったらしいのにソースが分からないところ。まあルーマニアって情報が入りにくいのかもしれませんが。

面白いホラー映画論　荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』

今日の昼食；納豆の亜麻仁油かけ、さつまいもの煮物、玄米粥。　最近、読んで面白かった本です。　著者は『ジョジョの奇妙な冒険』でカルト的な人気を誇る荒木飛呂彦。といっても、実は私　漫画の方は読んでおりません。　連載当時、周囲に熱心なファンが数名いて熱く語ってくれたのですが、絵柄が受け付けられませんでした。　『ナニワ金融道』や『きらきらひかる』など強烈な個性を持った漫画家の作品も大丈夫だったのに不思議ですが。　みな、「読めば面白いよ」と言ってくれたんですけどね。そんなわけで、今回は某ネット書店でとても評判がよかったので手にしてみました。　目次の次にある「ホラー映画　ＢＥＳＴ２０」などを見ると私とは好みが違うなと思ったのですが、文章がとにかく読みやすくて引き込まれました。　その結果、半日で読了。　「観客を怖がらせようとしていたらホラー映画」ということで、実際にはカテゴリーの違う　作品も名前が挙がっています。　ゾンビ映画がお好きなようで第一章がいきなりこれです。私は、興味のないジャンルだったのですが読んでいると面白い！　「ああ、こういった見方があるのか」とか「こんな楽しみ方が、、、」とか、目から鱗が落ちました。（本当）　映画の説明が上手く、私が実際に観ていいと思わなかったものでも読むと面白い。なんてこともあります。　同じ創作者の視点や素直な観客としての視点を併せ持っていてバランスの取れた方なのだなあと思いました。　あと、この本でいいのはこれを読んで、「観たい！」と思えばその日の内にレンタルＤＶＤショップで見つけられる作品が殆どだということ。　マニアは古い、珍しいものを好むのでＤＶＤになっていない作品でも薦めそうなものですがそれがないのがいいですね。　欲求不満になりません。　実際にこの本を読んで観たくなった作品をいくつか鑑賞しました。ああ、やっぱり好みが、、、、と思うものもありましたが、楽しみ方が分かるというのはいいですね。　その監督の癖、好みなど分かってくると「ああ！」と膝を打ったり、笑えたりもします。　自分は随分と偏った見方をしていたのだなあと反省するところも。この方、絵柄はあんなに強烈なのに文章はアクがなくて読みやすいですね。続編が出版された　ら読みたいです。　「あとがき」に私の好きな映画『ぼくのエリ　２００歳の少女』の名前が挙がっていて、感想や解説はなかったのでちょっと残念に思っています。（『ミッドナイト・ミート・トレイン』とともにこの本に加えたかったとだけ書いてありました。）　ホラー映画が特にお好きでない方にも薦められる一冊です。

トラウマ映画館　『悪い種子』

町山智浩『トラウマ映画館』に紹介されている『悪い種子』観ました。この映画、存在は知っていたんですが観る機会がなくてこの年まで来てしまいました。　マリー・ベル事件など子供のおかした犯罪があると引き合いに出される映画です。今回は思い切って鑑賞しました。　まず５０年以上前の作品なのですが、とても面白いです。ちょっと動きはぎこちない部分があるのですが、映像自体は綺麗に修復されていると思います。白黒ですけどね。　子役のパティー・マコーマックがとても上手いです。　以下、映画『悪い種子』のネタバレを含みます。ご注意下さい。＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊　　これは悪い遺伝子のお話なのですが、上手いなと思うのは「隔世遺伝」なんですね。子供はまともに育って、育ての親は一安心。普通の子供より上品で美しく賢く育ちます。遺伝なんて関係ない、人間は環境がよければ犯罪者にならないのだ！と思っていたら、、、というところ。確かに子供が大丈夫なら安心しますよね。それが、孫の代に出てしまう、母親は良識ある人間なので子供を理解することが出来ません。悩み、嘆き、疲れて、２歳の時に別れた実の母親に思いをはせるシーンは胸が痛くなります。　娘はかわいい、けれどもそこに流れている血が憎い、という引き裂かれた感情。　観た後、とても考えさせられる内容です。　実際に起こる事件を考えると、遺伝が考えられる場合、関係ない場合それぞれあるのですが暗澹たる気持ちになる映画です。＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊　特典映像で、パティー・マコーマックさんのインタビューがありました。大変、いい年のとり方をなさっていて素敵な女性になっていました。自信とユーモアセンスが溢れていて、仕事に誇りを持っていてとても魅力的です。この映像に救われた感じです。　それにしてもこの映画、マリー・ベル事件よりずっと前に作られているんですよね。映画は１９５６年、事件は１９６８年です。優れた作品は事件を予見するという例は沢山ありますが、これもその一つです。悪い種子【DVD】価格：1047円（税込、送料別) (2021/3/14時点)楽天で購入

面白かったドラマ　『マークスの山』

今日の朝食；大根のぬか漬け、豆腐と大根葉の味噌汁、玄米粥。　連休中はいかがお過ごしでしたか？こちらは夫が仕事で忙しく、外出もままならなかったためＤＶＤを観て過ごしました。　最近、ＷＯＷＯＷのドラマがレベル高いですね。『パンドラ』もなかなか面白かったですが、これも良かったです。高村薫の直木賞受賞作『マークスの山』。１０年以上前に一度、映画化されているんですがＤＶＤ化はされていないんですよね。主人公の合田雄一郎は中井貴一、水沢は萩原聖人、高木真知子は名取裕子でした。劇場に観にいったのですが、出来は、、、、。俳優がいいのに残念といった感じ。　今回はテレビドラマですが主演が上川隆也、水沢役は高良健吾という豪華なキャスト。しかしまあ、映像化されるとき合田というのはスーツにズックを履いていれば良しそれを家に帰って洗っていれば更に良しといった雰囲気ですね。　今までに演じた役者は私が知る限り（これがまた当てにならないですが）３人はいますがどの人も原作に忠実とは行きません。今回の上川隆也もいい俳優ですが、長身でも細面でもないですね。「剛直」という雰囲気は出ていましたが。　有名な作品なのであらすじは省略しますが、このドラマ、とにかく緊張感があっていいです。　出演者も演技派揃い。特に水沢裕之を演じた高良健吾、すごく良かったです。キャスティングは原作に忠実にしようと考えてもいない（笑）と思えます。だって、森の役が袴田吉彦ですよ。（原作では顔によくジンマシンの出る「ぺんぺん草」）有沢の役もぱっとしなかったですし。（原作では捜査一課一の二枚目）あくまでも警察内部の空気を出せる、演技の上手い俳優で固めようと意識している感じです。　　映像化作品によくあることですが男性の役を女性が演じたり、（雑誌記者の根来）本来出てこないはずの女性（合田の別れた妻　貴代子）が出てきたりというのはこのドラマでもありますが、邪魔になっていません。原作の時代設定を変更し、現代に移しているため細かい設定がすごく変わっていますが、あの緊迫感、ぴりぴりした警察内部の空気、外部からの圧力、冬の山岳地帯の肌を刺す雰囲気がよく出ています。　犯人を知っていても面白くて、借りてきたその日に全部観てしまいました。私はゆっくり楽しむ、、、という大人の余裕がいくつになっても身に付きません。。。　見終わった後、気になって又原作を読み返したのですが、（単行本の方です。この作品は単行本と文庫本でかなり差異があります）「え、こんなに変えていたの？？？」と驚くくらい違うんですよね。　でも、観た後は「高村薫の世界」になっているところがすごいです。印象的な台詞、原作の肝となる部分をしっかりと押さえているからでしょうか。以下、軽くネタバレをしますので、未読の方やドラマを観る予定の方はご注意を。＊＊＊＊＊＊＊＊　原作ではそもそもの発端となった事件の規模に比べて被害が大きすぎるんですよね。そこが、納得いかないという人も多いかと思います。（元になった「事件」は単なる死体遺棄。被害者の野村久志は左翼系同人誌を出していて大学の理事長子息であった木原に密告され退学。ですが、松井･浅野・林原・木原・佐伯が手を下したわけでなく高山病？で死亡。慌てたお坊ちゃま連中が死体を埋めた、という顛末。これをネタに水沢が恐喝するのですが水沢に殺害された人物　5名自殺者　２名重傷を負った者　２名です。（原作単行本））しかも、原作の冒頭に出てくる岩田幸平による登山者殺害事件と水沢一家無理心中事件の間には場所以外、接点がありません。関係が出てくるのは水沢が浅野宅に押し入って遺書を入手した後。岩田幸平が白骨遺体に関しては冤罪であると知ってからです。この辺り、ミステリー好きには？？？ですし、混乱を招きますよね。折原一や島田荘司の愛読者からすると「この二つの事件、直接関係ないんかい！！」と怒鳴りたくなること必定。（死体遺棄事件と登山者殺害事件とは関連があります。死体遺棄現場の目撃者が慌てて下山した先に精神○○者が住んでいたという悪い偶然が重なってしまったんです。とにかく、この作品はミステリーと言うより警察小説・山岳小説として読む方が正しいですから。）ドラマ版は、その点は充分に理解できるようになっています。　又、時代変更があったため原作の持つ独特の雰囲気（学生運動を振り返る）も一部割愛されていますが、その分　警察内部や検察の鬱憤を描いて重さを出しています。　原作は偶然が多すぎるといわれることがありますが、その点もカバーしてありますね。原作ファンには悪いですが、ドラマの方が整合性がとれていてコンパクト。原作は昭和51年から平成一桁にまたがり、いくつもの事件が絡み合って複雑。ドラマは時間を短縮し、枝葉末節を省き、原作にある思想的偏向（笑）を薄めてあります。今現在、不倫して離婚して公安とＦＢＩからマークされている人間（貴代子）を自由と高潔、知性の象徴なんてあまり思いませんからね。　高村薫が観たら納得しないかもしれませんが、一般的にはより分かりやすく感情移入しやすい作品になっていると思います。　今のＷＯＷＯＷ、ドラマ制作部門はすごいですね。。。私は評判のいい『パンドラ２』（ローマ数字を入れようとしたらエラーになりました）、『幻夜』は絶対にそこそこ評価されている『理由』、『マークスの山』と同じ脚本家による『空飛ぶタイヤ』は観ようかな？と思っています。　近所のレンタルショップが割り引きクーポンを出してくれたので、出来たら期限内に、、、と思っています。（昨日お店へいってみたら貸し出し中でした。。。。）　ところで、このドラマにテレビドラマ版と映画版で『ネコナデ』鬼の人事部長　鬼塚汰朗を演じた二人が出演していました。　二人が同じ画面に映ることはありませんでしたが。大杉さんと小木さん。やっぱり二人とも刑事役の方が似合うな、、、と思ってしまいました。追記；『マークスの山』映画版がＹＯＵＴＵＢＥにあるようですが、、、コメント欄を読む限り、地上波放送をアップしたものでしょう。私が劇場で観たものは目を背けたくなるような残虐シーンや○○シーンが目白押し。それが全てカットされているようですね。もともと出来がいまいちな作品なのに誰が観ても、、、、な動画みたいです。

もしもノーベル賞に　家庭部門があったら

今日の朝食；なすのぬか漬け、三分搗き米おにぎり。また、少し温かさが戻ってきました。蝉が鳴いていますが、来年出てくるはずの個体だったのでは？と不安になります。　ノーベル賞が発表されました。私には説明されても何のことかさっぱり分かりません。　夫が嬉しそうになにかプリントアウトしているなあと思っていたら、準結晶のモデル。楽しげに説明してくれましたが、一言も理解できませんでした。日本語？？ちゃんと日本語で話している？？　聴きながら頭は別方向。もしも、ノーベル賞に家庭部門があったら、、、、生栗の皮を簡単に剥ける機械とか、薄揚げの油抜きを自動的にしてくれる機械とか簡単に出来るんじゃないかな、、、、なんて考えてしまいました。　生栗の皮を剥く　くりくり坊主というハサミがありますが、あれを使うと本体が２／３くらいになるのがちょっと。実家にはありましたが思ったより便利ではないですよね。　薄揚げの油抜きは本気ですると小一時間はかかるし、ガス代、水道代も馬鹿にならないし、、、。　わたしはノーベル賞よりイグノーベル賞の方が楽しみです。日本人は常連ですしね。

意外と（失礼）よかった本　『結婚失格』

【送料無料】結婚失格今日の朝食；大根とにんじんのぬか漬け、がごめ昆布とピーマンの味噌汁、玄米粥。　寒くなりましたね。今日はこちらも日中の最高気温２２度らしいです。　連載・発表当時「賛否両論」だったという本を読みました。枡野浩一の『結婚失格』です。　誠に失礼な話ですが、私はこの方をつい先日まで知りませんでした。中村うさぎさんとの対談でこの方が本について語ってあり、それで知りました。私は携帯電話は電話機能しか使っていないので、「ケータイ短歌」といわれてもぴんと来ないのです。　現代歌人は俵さんと穂村弘さんしか知りません。。。　名前や職業は変えてありますがご自分の離婚体験について語られたものです。その時に読んだとされる本についても書かれています。私はこの方も人気漫画家だという奥さんも知らなくて、ただ、穂村弘さんの書いたエッセイが本の巻末に載っているらしいというので興味を持ちました。（又、この本に書かれた穂村弘さんのエッセイがとても評判がよかったので）　が、まず穂村弘さんのエッセイを読み（笑）、本文を読んでいたら止まらなくなりました。　ある日、突然　妻から家を追い出され、後は弁護士を通じて連絡があるのみ。自分の子供にさえ会わせてもらえず、悲しみに暮れます。いわれもない誹謗中傷、やってもいない暴力に対する批難、理不尽な状況で右往左往する主人公の心中がリアルに伝わってきました。　いしかわじゅんの『鉄槌！』も引き合いに出され、弁護士や裁判の方法についても憤懣やるかたないといったところ。　これ、男性が書いたということで批判があったらしいです。「男らしくない」ということなのでしょうか。妻の行動を暴露しているという見方からでしょうか。あと、レビューを読んでいると「子供が成長したときにどう思うか考えて欲しい」というものもありました。　私はお子さんの立場を思えば、書かれてよかったと思います。この方の元奥様とお子さん（血の繋がっていない子供も含む）に対する愛情がひしひしと伝わってくる内容だからです。そして、枡野氏は表現者なのですから、子供さんは成長すれば「父親の目から見た離婚」について興味を持ち、知りたいだろうと思うのです。もし何も書いていなかったら、自分に関心がなかったのだろうか？とか愛情がなかったのだろうか？とか考えてしまうと思います。　普通の父親なら諦めがつくでしょうが、物書きなのにとか思うでしょうね。　「あなたのことが嫌いになった」という言葉が出てきますが、本心とは反対だということが本文でよく分かります。（又、本文でだめ押しのようにそのことを指摘する登場人物も出てきます）　離婚してからも元奥さんの好きだったケーキを注文してしまう、食べさせたいと思ってしまう件は鼻がつんと来ました。　元奥様も表現者で自分を正当化するような作品を発表しているのに、夫は駄目ということはないと思います。　それこそジェンダー差別になってしまいます。ただ、中村うさぎさんが書いていたように「社会性を持たせたらよかった」というのは感じました。似たような離婚したカップル、多いですしね。　私は女ですから、女性側の主張、いいたいこと、やりたいことはなんとなく察しがつくので敢えて奥様の著作を読みたいとは思いません。　いらいらするほど真正直で、真摯な枡野氏の執筆姿勢に感じ入った一冊でした。　文庫本には枡野氏に対して手厳しい「解説」がついているようです。（私が読んだのは単行本。解説は又の機会に読もうと思っています）

美しく残酷なスウェーデン映画　『ぼくのエリ』

【送料無料】ぼくのエリ 200歳の少女スウェーデン映画『ぼくのエリ』　原作も読みましたが、私はこの映画の方が好きですね。ハリウッドリメイクは言うに及ばず。　スウェーデンの郊外に住む孤独な少年オスカー。両親は離婚し、学校ではいじめられているオカルト好きな１２歳。ある日、アパートの中庭で不思議な少女　エリと出会います。　雪の降る中に半袖の薄着、非衛生的で変わった雰囲気、独特な話し方。夜中にオスカーのお隣に引っ越してきたといいます。　父親らしき中年男性（原作ではホーカンという名前）と暮らしているのですが、彼らが街に来て以来、周囲では異常な事件が起こり始めます。。。　スウェーデンの凍てつくような寒さと幻想的な雰囲気、８０年代の懐古的な空気が相まって不思議な叙情を醸し出しています。映像、色彩感覚とコントラスト、鏡の使い方がとても上手いです。音楽もいいです。美しい旋律が雪や氷の映像とよく合っています。　以下、『ぼくのエリ』『モールス』のネタバレを含みます。まだ、ご覧になっていない方や原作をお読みになっていない方はご注意下さい。　『ぼくのエリ』予告編をご覧になった方には特にネタバレもなにもないのですが、エリは長年、生き続けてきたヴァンパイア。ホーカンは父親ではなくエリに住居を与え、太陽から守り、血を収集する役目の男性です。　映画では暗示的にしか表現されていませんが、小児愛者。といっても前科はない、元高校教師という教養ある人物です。子供に危害を加えることより、一緒にいることを好むタイプです。　読書傾向がばれ（８０年代にはどの国でもプライバシー保護という意識は薄いようです）高校は辞めざるを得ず、家は燃やされてしまいます。自暴自棄になりアルコールに溺れていたところをエリに助けられます。あの、殺人現場における手際の悪さは彼のそういった前歴と性格、殺人に対する嫌悪を表しています。（原作ではゾンビ化してから性格も一変しますが、、、。あの辺りの描写はグロテスクです）　正直、ヴァンパイアものとしてストーリーは萩尾望都の名作『ポーの一族』を読んでいるとさほど目新しくはないんですよね。以前、話題になった『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』もどうしてあそこまで騒がれるのか分かりませんでした。　姿が変わらぬまま生き続けるヴァンパイアの孤独と悲哀。それだけなら萩尾望都の作品を超えるものはなかなか出ないでしょうね。　日本に生まれて漫画文化をそれなりに堪能していると、世界のサブカルチャーにさほど目新しさを感じないというのはよくあることです。　が、今回は猟奇殺人と少年の初恋という要素の結合が独特の忘れがたい印象を与えています。こんな融合があるのか、という不思議なカクテルを味わったような衝撃。エリを演じた少女、よく見つけてきたなあと本当に感心しました。　黒髪、大きな瞳、か細い肢体、中性的な魅力と野性、、、。原作のイメージを損なわない見事なキャスティングです。　声も低くて（設定として重要）奇跡的だと思っていたらこの声は吹き替えだそうです。監督が彼女自身の声が高すぎると判断してのことだとか。うーん、こだわっていますね。　ちなみに日本語吹き替えの声もちゃんと低いんですよ。日本の制作側もちゃんと考えています。　主人公オスカーは原作の上巻を読むと映画版はかっこよすぎ？と思います。典型的な北欧の美少年で。が、下巻のラスト近くまで読むと頷ける配役です。エリの黒髪、緑色の目、浅黒い皮膚とオスカーの金髪、碧眼、大理石のような白さのコントラストがいいです。　邦題『ぼくのエリ　２００歳の少女』はやり玉に挙がっていますがサブタイトル以外はさほど悪くないと思っています。　このエリという名前にも重要な意味があるからです。　聖書を読んだことのある方（又は原作を読んだ方、聖書を題材にしたＳＦ名作を読んだ方々、これをタイトルにした日本映画をご存じの方、音楽に詳しい方）にはお分かりでしょうがこれはイエス・キリストが十字架の上でつぶやいたとされる最後の言葉。「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」を意識しているようです。ヘブライ語で神に対する呼びかけ。アラム語では「エロイ」。福音書によって違います。　この作品におけるエリという人物に対する、オスカーやホーカンの思い入れを見事に表していると思いますね。　映画中、何度もエリが「女の子ではない」という台詞があります。最初はヴァンパイア＝見かけは１２歳だけど本当は相当な年齢、くらいの意味かな？と思っていたのですが原作を読んだら違いました。少年だったんですね。　エリという名前は少年であったときの名前（Ｅｌｉａｓ）からとっているのですが、作者も最初から考えて採用したのだと思います。（だから、ハリウッドリメイク版はその点でもＮＧ）　原作を読むとおぼろげながら描写があるのですがエリがヴァンパイアに「感染」した原因となった男性のモデルは多分、ジル・ド・レイ（少年好きで残虐なところ、被害者をいったん安心させてから襲うなどの嗜虐性など）、時代は１８世紀なのでエリザベート・バートリが非道な所行を行っていた時期を意識していると思います。貴族の残虐行為が露見しにくかった時代です。　「２００歳の少女」が駄目なのはまず、本当は少女ではないから嘘。あとエリは２２０年前に産まれた（この原作小説の舞台は１９８１年）といっていますが半分くらいは眠っていたという設定です。つまり本人も自分がいくつに該当するのか見当がつかない様子。　この辺りのエリの過去はスウェーデン映画の方でも詳しく触れられていません。まあ上下巻ある原作を２時間にまとめるのですからいろいろ割愛せざるを得ないでしょう。それと原作はこの辺りグロテスク過ぎます。　この映画、某サイトのレビューで映倫カットが話題になっていますが、重要なシーンにぼかしが入っていて「エリ＝去勢されてしまった少年」という重要な設定が観た人に分からないという欠点があります。　オスカーは全てを知った上でエリと行動を共にする、、、。その孤独と絶望の深さが、スウェーデンの寒さと共にひしひしと伝わってくる映画です。あの、印象的なラストシーンのモールス信号は映画のオリジナル。いいですよね。　とはいえ、この先二人に絶対にハッピーエンドはありません。　スウェーデン発ダークファンタジー版『白夜行』といったところですね。ふたりで生きて行くには法を破り、人を騙していかねばならないです。オスカーがホーカンのように殺人に手を染めないとしても、エリの殺人を黙認か幇助しなければなりません。　　エリとオスカー。二人の孤独と交流が痛々しく胸に迫る名作です。

最近、読んだ本のこと　『モールス』

昨日の夕食；真さばの干物、青大豆と根菜の煮物、はりはり漬け、えのきだけ・わかめ・玉ねぎの味噌汁、三分搗き米ご飯１杯。　真さばはさんりく干もの屋さんのものです。塩加減が絶妙で美味しいです。スウェーデン映画『ぼくのエリ』とハリウッド映画『モールス』の原作。　リメイク映画は最近上演されたのに上巻は品切れ。古本を購入しました。下巻は楽天ブックスにて購入。　こういうの、困りますよね。。。　読後の感想。映画の方が好きですね。原作は性倒錯の描写が多くてちょっと退きました。翻訳にも問題がありそうですが、章が細切れで視点がころころと変化するのも読みにくいです。　オスカーの日常、エリの過去（少しだけ）、ホーカンの心情などは分かりましたがドタバタした印象が否めません。登場人物も増え、警察の視点も加わります。　映画だけでは分かりにくかった中年の男性たちとヴィルギニア（猫に襲われる女性）の関係、いじめのリーダーの家庭環境などは描かれているのでそういった部分はよかったです。　ただ、エリの過去について知りたいと思って読む方は要注意。あまり触れられていませんし、表現も曖昧です。　スウェーデンのスティーヴン・キングという名称は、ホラー界の期待の星、とか、ヴァンパイアを描いて荒唐無稽にならなかった、くらいの意味だと思いました。