電車内での痴漢容疑-NHK森本キャスター逮捕の報道
一昨日以来の報道で、とてもショッキングなニュースが流れました。「NHKのニュースキャスター森本健成氏逮捕」の記事です。電車で女性の体を触ったとして警視庁玉川署に強制わいせつ容疑で逮捕されたNHKニュースキャスターの森本健成容疑者(47)(千葉県浦安市)について、東京地検が16日に処分保留で釈放したことが捜査関係者への取材でわかった。 逮捕当初は「触った覚えはない」と容疑を否認していたが、同日送検された後の調べに容疑を認め、逃亡の恐れもないことから釈放されたとみられる。今後も任意での捜査が続けられる。 (2012年11月16日14時30分 読売新聞)土日放送「おはよう日本」の顔であり、親しみやすいコメントと家庭的な雰囲気で人気のあるキャスターです。しかも、気象予報士を取得する努力家でもありました。大変残念で、にわかには信じられないニュースでした。犯行当時の状況について、次のように報道されました。森本容疑者は14日午後7時45分ごろ、東急田園都市線の渋谷駅から二子玉川駅に着くまでの約11分間、女子大生(23)の下着の中に手を入れ胸を触ったという。当時車内は大混雑しており、身動きも取れない状態。女子大生は「大声を出せず、逃げることもできなかった」などと話しているという。(2012年11月17日 8時2分 スポーツ報知)しかし、この事件は謎が多く、一時「陰謀」「冤罪」説が飛び交う事態となりました。 新聞報道などによると、森本容疑者は14日、昼過ぎに仕事を終え、NHKの同僚と渋谷区内の2軒で夕方まで飲食。犯行当時も酒に酔った状態で、同署の調べに対し「電車に乗って帰宅する途中だった。女性の体を触った覚えはない」と容疑を否認していたという。 だが、森本容疑者の自宅は千葉県浦安市で、東急田園都市線の二子玉川方面は全くの逆方向に当たる。「(渋谷駅で)乗り間違ったかもしれない」と供述したとされるが、パトカーで同署に連行された際の森本容疑者は深酒の状態ではなかったという。 知的で温厚でさわやか、天気予報を報じるために気象予報士の資格を得るなど仕事熱心だった森本容疑者はなぜ、こんな犯行に及んだのか。同僚と飲食後、逮捕までの「空白の2~3時間」は何をしていたのか。なぜ自宅とは逆方向の電車に乗ったのか。 謎が謎を呼び込んで、ニュースが報道された11月15日午前以降、ネットやツイッターには陰謀説やら冤罪説やらさまざまな見方が飛び交った。 「冬間近で女子大生は厚着だったはず。下着の中に手を入れて胸を触ることは不可能だ」「森本アナはNHKスペシャル『原発事故調最終報告~解明された謎 残された課題~』を担当していた。上層部には邪魔な存在だった」「言いたいことを率直に言う目障りな森本アナを辞めさせるには事件を起こすことが一番だった」 陰謀説や冤罪説を唱える主な意見はこんな内容だった。 また、自宅と逆方向の電車内での痴漢行為による逮捕というパターンが、某経済評論家が2006年に迷惑防止条例違反で逮捕=最高裁で懲役4か月確定後に収監=された事例と酷似していることから、某経済評論家の冤罪を確信しているネットユーザーの中には二つの事件を結びつけて「国家権力」の陰謀説を展開する人もいた。(2012年11月16日(金)18時33分 J-CASTニュース)確かに、逮捕までの「空白の2~3時間」と、自宅とは逆方向の電車に乗ったことは謎です。深酒の状態ではないのに(そうであっても)、自宅と逆方向で全く路線の違う電車に乗るはずがありません。帰宅途中という証言とは矛盾すると言ってもいいでしょう。また、報道の記事が事実を不明瞭なものにしています。「渋谷駅から二子玉川駅に着くまでの約11分間、~触ったという」という表現からは、11分間が「駅間の時間」ではなく、「触った」時間に読めてしまいます。また、「下着の中に手を入れ胸を触った」とある「下着」という表現は範囲が広すぎて、どの下着なのか分かりません。逆に、「胸」とは別の「下着」であるかの印象を与えてしまいます。記事の不正確な表現が、「痴漢行為が明白で、手の込んだものであった」かの印象を与えているのです。恐らく、警察発表と会見の質問などを交えて書いているのでしょうが、謎の多い出来事なので、もっと慎重に「曖昧な印象」を与えることのない表現を使うべきだと思います。ネット上の情報は、大げさに話を広げて話題性を高めることが目的です。正確さを保証するものではありません。しかし、「火のないところに…」ではないですが、謎をあえて報道し、不正確な印象を作り出す記事の書き方に問題を生じさせる「火だね」があるように思います。森本キャスターや関係者の皆さんにとって、心ない「創作話」をする気はありませんが、あえてこのニュースを取り上げたのは、不用意な表現で誤解を招きかねない昨今の「不祥事報道」のあり方に問題を感じたからです。また、最近多い「痴漢冤罪」の可能性も考慮して発言、報道すべきであるとの思いからです。マスコミの報道姿勢には疑問を感じることが多々あります。一方、警察側もそうです。近年では、「誤認逮捕」や「供述の信頼性」もよく取り沙汰されます。警察も、責任のある発言や情報提供に最大限の努力を払って欲しいと思います。結局は、社会全体が「良識」と「見識」のある判断を目指していくしかないのかも知れません。被害に会われた方にとっても、容疑者側にとっても、周囲の不正確な情報にとらわれず、正しい判断に導かれるよう願って止みません。