いじめ、半年間で14万4千件-昨年度の倍以上という「謎の数字」
昨日の「YOMIURI ONLINE」から引用します。全国の小中高校、特別支援学校が今年4月から9月までに把握したいじめの件数が、14万4054件に上ったことが22日、文部科学省の緊急調査でわかった。昨年度1年間の約7万件の倍以上にあたり、同省は「学校側が軽微な事案も報告したため急増した」とみている。ただ、都道府県による把握件数に極端な差があり、同省は今後、調査方法の改善も検討するとしている。調査は、大津市で中学2年生が自殺した問題を契機に今夏、平野博文・前文科相の指示で実施された。把握件数は小学校が8万8132件、中学校4万2751件、高校1万2574件、特別支援学校597件。31都道府県が、11年度の年間件数をすでに上回っていた。 (2012年11月23日 読売新聞)「大津市いじめ自殺」がきっかけとなり、今年の夏以降、全国で大規模な「いじめの実態及び対策に関する調査」が行われました。文部科学省ウェッブページに載る「報道発表」(2012年11月22日付)から、以下具体的に見てみます。「いじめの問題に関する児童生徒の実態把握並びに教育委員会及び学校の取組状況に係る緊急調査」結果について調査時期 平成24年8月1日~9月22日調査対象 全国の公私立の中学校、高等学校、高等専修学校、中等教育学校、特別支援学校調査項目 いじめの認知件数等 具体的事案の状況いじめの問題への特色ある取組報告書は、件数のみでなく、具体的な事例や取り組みの実例も記載しています(「概要」「別添1」「別添2」の3文書で報告)。そのうちの「別添1」文書(PDFファイル)から、まずは学校別件数を見てみましょう。「平成24年度当初から今回の調査の時点までにおける、いじめの認知件数」数字は、左から「認知件数」「解消している件数」「割合」「昨年度件数(1年間)」です。小学校 88,132件 71,055件 80.6% 昨年度 33,124件 中学校 42,751件 33,037件 77.3% 昨年度 30,749件高等学校 12,574件 9,194件 73.1% 昨年度 6,020件特別支援学校 597件 415件 69.5% 昨年度 597件合計144,054件(平成23年度70,231件) 左の数字は4月から約5ヶ月間、右の数字は1年間の数字です。どの数字も、昨年度(年間)を大きく上回っています。 全体の生徒1千人当たりの認知件数は10.4件(5ヶ月間)で、平成23年度の5.0件(1年間)の倍を越えています。この数字の“謎”には驚かされます。昨年度までの調査と比較して倍増するほど「いじめ」が増加しているのでしょうか。学校別としては、全国学校数の割合からすれば、ほぼ比例する数字で、解消している割合も学年が上がるに従って緩やかに減少していて、中学高校生の「いじめ指導の難しさ」を表す数字となっています。割合や比率としては参考になっても、「実数」としては「学校側がやっと重い腰を上げて実態把握に取り組んだ」のか、「まだまだ数字に現れない、いじめの実態」が潜んでいるのかは不明です。教育委員会や学校側の不手際という連日のマスコミ報道をう受けて、文科省や学校側、教育委員会側が「本気で」調査したとしても、結局は「申告」に頼るほかない実情では、正確な実態把握はまだまだ難しいと言うほかないのでしょう。次に、都道府県別の認知件数(国公私立学校)をあげてみます。47都道府県から、認知件数が多いトップ10(右は1000人あたりの認知件数)鹿児島県 30,877件 159.5件千葉県 15,793件 24.2件宮城県 9,579件 37.6件京都府 8,748件 31.0件東京都 8,313件 6.8件愛知県 7,608件 9.0件奈良県 6,781件 43.0件神奈川県 5,140件 5.6件静岡県 4,436件 10.6件熊本県 3,649件 17.8件47都道府県から、認知件数が少ないトップ10(右は1000人あたりの認知件数)佐賀県 132件 1.3件香川県 168件 1.5件鳥取県 198件 3.0件高知県 249件 3.2件和歌山県 256件 2.3件滋賀県 260件 1.5件島根県 265件 3.4件山形県 294件 2.3件福島県 324件 1.5件愛媛県 354件 2.3件数字の配列に不自然さを感じます。件数の多寡が人数の割合ランクと結びついていません。「認知件数」と「1000人あたりの認知件数」とが必ずしもランキングと対応していないことが分かります。ここには入っていませんが、例えば、1000人あたりの認知件数が極端に少ない地域があります。福岡県 1,0件 埼玉県 1,7件 兵庫県 3,1件 大阪府 3,5件どうでしょうか。鹿児島県が「いじめ最多」県で、極端に認知件数と割合が多くなっています。一方で、福岡県は、「いじめがほとんどない」県なのでしょうか。奈良県や宮城県、京都府、千葉県は「いじめが多発」していて、埼玉県や大阪府、兵庫県は「いじめが少ない」地域なのでしょうか。首都圏を見ても、千葉県だけ多くて、東京都、埼玉県、神奈川県は千葉県の2割程度しかいじめがないという現状が「実態」として信じられるでしょうか。昨年度が、今年5ヶ月間の半数以下である点で、「信用できない数字を今まで公開していた」ことを白日の下に晒す結果となっています。地域別には「正直度」や「丁寧度」、さらにはお上への「忠実度」を測る尺度になっていても、とうてい事実を反映した数字とは思えません。「いじめ」対策を本気で考え、真剣に議論して現場へ還元していく価値のある資料にはほど遠いものと言わざるをえません。「いじめ」について、まずは大人たちが「正直に」「真剣に」「本気で」情報を公開して対策を講じる下地を整える事が必要です。残念ながら、今回の文科省発表は、「緊急調査」を実施したことの意味はあっても、実態を把握する生きた調査にはなっていないように思います。ただし、今回これだけ全体の数字が伸びている事実は、重く受け止めて「いじめの減少」「自殺の再発防止」に具体的に取り組む方策を緊急に整備する必要があることは誰もが感じる「実態」です。文科省は、「次の一手」を早急に打ち出すべきです。願わくは、現場の先生方、教育委員会の事務仕事(あるいは雑用)をいたずらに増やすこととなっていなければ良いと思います。いたずらに「調査」を増やすよりは、もっと「現場の声」をしっかり受け止めて、具体的、効果的、そして早急の手立てを講じることを、まずは考えて欲しいものです。