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カテゴリ:現代サーカス
いま、フランス現代サーカスでどのカンパニーをいちばん紹介したいですか?と訊かれたら、やっぱり
「シルク・イシ」 と答えるであろう。 カンパニー、といっても舞台に上がるのはひとり、ジョアン・ル・ギエルムである。 あとは、ミュージシャンや技術スタッフなどがいて、全部あわせてカンパニー、シルク・イシ。 彼のファンは多い。ものすごく多い。 フランスでも、だいたい公演をオーガナイズする劇場担当者の目がハートマークである。 「私たち、みんなジョアンのファンクラブよ!」 なーんて、堂々と豪語するくらい。 実はジョアンは過去に日本で公演を行っている。 彼らのテントを使わずに、であるが。 それは記念碑的出来事だと思う。 その時のスタッフがもう一度働きかけたら、ひょっとして彼は動くのかもしれない―私にはわからない。 少なくとも私が知っている事実は、いま、彼らは彼らのテント以外の場所ではやりたくない、と断言しているということ。 彼のショウは、彼のものでしかない。世界に二つと似たものはない。 全てのアイディア、全ての表現、それから動きも表情も、世界に二つと存在しない。 それが、シルク・イシ。 目が釘付けになる。 見るのが怖いような、それにしても何かが美しすぎて、その見えない吸引力によって張りつけられたように、視線はどうしても動かない。 心が思い通りにならない。 それを見て、たとえ好きでも、嫌いでも、 とにかく何かひどく強い感覚が体と頭にこびりついて離れない。 それが、シルク・イシ。 2年前、フランスの小さな小さなフェスティバルで彼は演じていた。 マネージメントの女性は 「とても例外的にね。」 と言った。 今や、こんなに小さなフェスティバルで公演することはほとんどないのだという。 そうかも。だって他の出し物っていったら、ファンファーレくらいしか見えなかったもん。 その公演のはねた後、身内のパーティに出席を許された。 なのに、それはとても居心地の悪いものに終わってしまった。 フェスティバルの主催者はとても親切にしてくれたけれど、ジョアンを取り巻くスタッフたちに阻まれたように、私は口をきけなかった。 あーあ、と心がため息をついた。 それから2年。 性懲りもなく、私は先月エルブフという町で行われた、彼らの公演会場に足を運んだ。 ネクソンから3時間かけてパリにもどり、その足で2時間かけてエルブフへ。 窮屈なスケジュールの中でそんな無理をしたのも、会えるかもしれないチャンスがあるのに何もせずに諦めたらゼッタイ後悔するから。 でも予感はあった。 ネガティブなほうの。。。 1週間以上前からマネージメントの女性にアポイントを願い出ていたのに返事が全く来ないのである。 来ないからこそ、当日押しかけるしかないと思った。 ダメでもともと!えいやっ、てなもんである。 かくして、日が落ちるエルブフに到着。 劇場のスタッフに彼女の所在を尋ねる。 彼女はいるはずだという。でも見当たらない。 あちこちを探す。でも見つからない。 私はその日のうちにパリに帰る必要があった。 最後の瞬間まで待ったけれど、結局タイムアウト。 あーあ、と、2年後に、2度目のため息。 めぐり合わせとかご縁とか、仕事にはそればかりじゃないと思うけど、やっぱり考えちゃう。 ねー、ご縁がないのかな? 日本に帰り、新宿ゴールデン街でため息をついた。 「そんなわけで、どう~しても会えないんですよ、ジョアンに。」 すると、こともなげにカウンターの中の吾郎さんは言った。 「そこ、ちょうどそのへんに、ジョアンは座ってたよ。」 へっ?! 「えっ!来たんですか?ここに?」 もう、うらやましいとか、そーいうの超えてる。 私は個人的にも彼のファンだ。 それは間違いない。 けど、別に追っかけではない。 この3年ほどで、実際観た現代サーカス公演は60本くらい、映像も合わせると多分100本は下らない。 彼の作品を初めて観たのは、多分最初の5本目くらいだったろう。 100本観たいま、やっぱりナンバーワンは彼なんだから、彼の公演をやりたいと思うのはとても自然のことなんだ。 問題は、世界の各地にそういう人がわんさといる、という事実。 しかも彼の公演は永遠には続かない。 多分、あと数年―…らしい。 そう考えると、やっぱり最初に日本で彼を紹介した方々は偉かった。 ほんとに拍手。 一方で、彼を超えるアーティストがどぅ~しても現れないことにも、やっぱりフラストレーションを抱えてしまう私なのであった。 <写真:エルブフで行われた、ジョアンのLa Motte et la Monstration展のテント> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007年12月14日 21時39分33秒
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