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ソテツ、という生き物ほど、奇妙けったいな存在はない。 あの存在感は何から出てくるのだろう? 形があるようで、形がない。 あの細くビシビシと突き刺さりそうな葉も、 茶色から焦げ茶まで、硬そうなのから柔らかそうなのまで、 木質なのから毛むくじゃらまで、 その時の気分で気ままに形を変えているような そんな印象を与える。 小学生のとき、教科書にソテツが載っていたような気がする。 たしか、裸子植物、という分類で そうそう、雄株と雌株が別。 で、オトコのほうは松ぼっくりみたいなのがてっぺんに載っていて、女のほうは、まるでファーで作ったボールみたいなのが載ってた 、ように思う。 なんだかオトコ、オンナ、ってのを主張しすぎていて、植物というにはなんだかナマナマシイ感じがして、 要するに、なんだか気持ち悪くって、 コワイ って、思ってた。 自分が成長するにつれて、どんどん北上していったせいか、自分の視界にソテツが入ることがなくなって、そんな感覚もすっかり忘れていたのだが。 ひょんなことで、ぐぐっと一気に南下したというか西方に異動し、唐突にしかも頻繁に、ソテツが目の前に現れ出てきたのである。 久しぶりにお見かけしたソテツは、幼いころよりも更に生々しく見えて、鳥肌とともに体の芯から 「ぞくっ」 とくるものを感じた。 ソテツ。 不思議な生き物。 ああ、きっとあの形は世を欺く仮の姿で、木に見せかけた中身はサボテンよりも水分が多くって、 ああきっと、昔流行った「スライム」みたいに緑色で、 どろっとしていて、くっつきそうでくっつかなくて 冷たくって。 夜のうちに自由に動き出し、 朝になると同じ形にもどっているんだわ、きっと。 でも写真とかに撮っておくと、ちょっと違うの、昨日の晩と。 でもソテツの姿を昨日と比較しようとする人なんていないから、誰も気づかないだけなんだわ。 そうなると、あらゆるソテツが目に入って、気になって仕方がない。 怖いもの見たさというのか、わざわざ植物園にはいってしまったりして。 松、杉、桜、銀杏、楠、 ハクサンボク、ハナミズキ、エゴノキ。 ああ心が和むわ、落ち着くわ。 でも本当は、心の中で待っている、あの生き物を探してる。 どきどきする、バクバクする。 そして当然、出会うのだ、あの生き物。 目の端に入る、 あ、いた。 いるけど見たくない、見たくないけど見たい。 アレは、なぜか2種類の姿がある。 ひとつは、まるで椰子の木のように、一本の幹でごわーっと伸びたやつ。 もおうひとつは、サボテンよろしく、幹がにょき、にょき(決して枝ではない)とメインの幹から派生して伸びているやつ。 どっちが怖いかというと、どっちも怖い。 別の怖さがある。 たくさんの幹がにょきにょき出てるやつは、まるで竜の八つ頭である。 メデューサの頭の上の蛇である。 絶対、これは植物じゃない。 それだけは言える。 植物?なわけない。 ぜったいにコイツは動くだろう。 もうひとつの類の、一本の太い幹のやつ、これは言ってみればソテツの閻魔大王である。 どどーんと、隠然たる迫力で迫ってくる。 上から覆いかぶさって倒れてきたらひとたまりもない、そんな恐怖である。 ソテツ怖い、ソテツ怖い もはや強迫観念となったそれは、日々襲ってきて日ごとに酷くなる。 他のことをやっていないと、ソテツのことしか考えられなくなる。 一日一回、ソテツを見る。 日課になっている。 しかも別に決まったソテツがあるわけではない。 毎日探して歩いているわけだ。 もはやソテツ中毒、たまらず、ついに辞典を調べてみた。 ソテツ、ソテツ… 「根に根粒があり、藍藻類を共生させており、それらが窒素固定能を持つため、痩せ地でも生育できる。」 根粒?なんじゃそりゃ! 藍藻類を共生? 「鉄を受けると元気になる(蘇鉄)という伝承があり、茎にクギを打ち込まれていることがよくある。また鉄樹の名もある。」 鉄を幹に打ち込まれる?よく?! 鉄で蘇生するってこと?そんな植物、あるんかー!! 「生育は遅いが成長すれば樹高は8m以上にもなり、その際でも移植が可能なほどに強健である。幹は太く、たまにしか枝分かれせず、細い枝は無い。幹の表面は一面に葉跡で埋まっている。葉はその先端に輪生状につき、全体としては幹の先に杯状の葉の集団をつける。葉は多数の線状の小葉からなる羽状複葉で、葉先は鋭く尖り、刺さると痛い。」 痛そうだわ、確かに。 そんなことより、次の記述には度肝を抜かれた。 自分が怖れてやまなかったソテツが、理由なき畏れでなかったことがわかってしまったのである。 「種子にはアゾキシメタンを含む配糖体・サイカシン(Cycasin)を含み有毒であるが、澱粉分も多いので、皮を剥ぎ、時間をかけて充分に水に晒し、発酵させ、乾燥するなどの処理をすれば食用になる。沖縄県や鹿児島県奄美群島では、飢饉の際に食料として飢えをしのいだとの伝承もあるが、毒にやられて苦しむ人が出て「ソテツ地獄」という言葉が生まれた。与論島でも、戦後から本土復帰のあと数年は島民の生活は大変貧しく、ソテツの種子で飢えをしのいでいた。その様子も「ソテツ地獄」と言っている。グアム島など、ソテツ澱粉を常食している住民がいる地域では筋萎縮性側索硬化症やパーキンソニズム痴呆コンプレックスの比率が高いと言われる。」 アカンー!!! もうソテツを普通の目では見られないではないか。 なんちゅう植物、いや生き物。 聞けば、ソテツの誕生は非常に古く、生きた化石とすら言われるという。 しかも成長は極めて遅く、「大ソテツ」と呼ばれるクラスは嘘かまことか(多分まことだろう)、1000年ほど生きている、というのである。 せんねん! せんねん、ですよ?! 千年! ソテツの前を通るたびにオシッコちびりたくなる自分が、情けないけどそれも理由なきことでもないな、とちょいと開きなおった今日この頃である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010年12月07日 21時37分04秒
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