小説 「scene clipper」 Episode 10
小説 「scene clipper」 Episode 10 「ふうん・・・」「その、ふうんってのは何なのかな?」 「いやね、あなたの仕事って、なんかこう・・興味を魅かれる映像とかを文字にして人に読んでもらう、そんなふうに聞いたから、それって私に言わせればロマンティックじゃないんだけど・・でもさっきの言葉とは裏腹」 「そりゃあ、大事な人との思い出に浸っていたなんてこと、それを知らなかったとは言え、邪魔したんだから、すごく悪いことしたって思うさ、そういうもんだろ?」 「だからそんな風に思えるって、ロマンをカラカラに乾かしちゃう人じゃないんだろうなって、それが言いたかったわけ」 そう言い終わるとマリは、ジーンズの後ろポケットに両手を突っ込んだ。山本は思わず白い歯を見せた。 「なに?その白い歯」「いや、君はその、後ろでも前でもポケットに手を入れるのが癖になっているんだなと、しかも決まって両手だ」 何故、顔を赤らめた? 「・・・これはあたしの、心理状態を表しているんだわ」 「おっと!ひょっとして前ポケットの時は警戒、で、後ろの時なら受け入れる用意があるとか言う・・・」 彼女の顔色はもう赤らめたどころの騒ぎじゃなく、真っ赤! 「え?もしかして当たりなのかい!」いつか見せたあの気合の入った眼光で一睨みして、俺の前で身をひるがえすとマリはとうとう一度も振り返ることなく笹塚十号通り商店街の向こうに姿を消してしまった。 その夜下北沢の『Roy』で上妻と会った。マリを怒らせてしまった?喪失感に似た不安から俺は上妻を呼び出したのだ。 先に来ていた上妻が俺を一瞬凝視して白い歯を見せた。思うに『白い歯』というのは人の顔を画面とするなら、目と口の次に大事なアイテムだと思われるが、人の意表を衝き衝撃を与えることに関しては、目も口も敵わないのではないか。 上妻の白い歯が俺に与えた衝撃は今の俺の理解を超え、とうとう口がものを言うことに 「その動揺を隠しきれてない表情、何とかしろ。今のお前なら詐欺師のカモになること請け合うぞ」 「久しぶりに会うというのに随分じゃないか・・・。」「おいおい、・・・これは、重症だな・・・」「どういう意味だ?」「クリッパーがクリップされてるってことさ」「・・・・・・・・・」 「やっぱりな、お前は彼女に恋してんだよ」 山本は何も言えず上妻の視線から逃げ出すと、窓ガラスに映る自分に問いかけた。 (本当なのか?!・・・・・)いつも応援コメント頂きありがとうございます。今回もどうぞよろしくお願い致します。