小説 「scene clipper」 Episode 17
小説 「scene clipper」 Episode 17 「だから、吸ってませんってタバコは・・・」「まあ、それはいいんだが・・・」 水城も少しばかりイライラしたのだろう、小さい声ではあったが不満をもらした。 「何が『それはいいんだが』なの・・・ご自分の涙腺が弱いのを、まだ吸ってもないタバコを吸ったからと、人のせいにして誤魔化すのは無いでしょって・・・」 「ん?なんか言ったか?」「いいえ何も・・・」 「ところでだ!」( 出たよ、唐突に訳の分かんない接続詞・・・接続詞・・だっけか? ) 「俺の後輩の夕子は頑張って人生の、こう、軌道に乗ったというか、もう俺なんかが心配する必要も無くなった。けど、お前の夕子ちゃんはどうかな?」「え、何すか?うちの夕子がどうしたって言うんです?」 「分かんねえかなあ・・夕子ちゃん、お前が今のまま走り屋をやっててさ、安心していられんのかなってことだよ」 水城は関東最大規模の暴走族「ブラック・キング」のメンバーだ。その走りっぷりは『危ない』の一言に尽きた。 「ああ、その事ですか」「そうだよ・・・俺だってテレビのニュースで二輪が走ってる映像観るたびに、あれ、お前じゃないかってよ・・・」「リョウさん、心配してくれてたんですか俺の事」「お前と夕子ちゃんのことだよ!」「有難うございます・・・でももう大丈夫ですから」「大丈夫?」「はい、ついこないだ抜けてきましたから」「え!あのブラック・キングをか!」 「はい、」「どうやって?」 「もう結婚式の日も近いし、何とかしなきゃって考えてましたけど、なかなか切っ掛けがつかめなくって・・・」「まあ、そうだろうな・・・」「で、万策つきて初代総長を訪ねて打ち明けたというか相談に乗って頂いたんです・・・」「うん」「案ずるより産むが易しって言いいますよね、あれでした」「いいから続けろ」 「はい、抜けるにはやはり今の総長の許しがいるんですが、初代が言うには『あいつ自分の先祖が徳川将軍家の旗本だったことが唯一の自慢なんだ。で、あいつの先祖は400石。水城、お前んち確か・・・』『じい様が言うには800石だったらしいです』『それだよ!同じ直参旗本でも400石取りと800石取りとじゃレベルが違う、』『ああその事ですか』『そうだ、それを上手く利用してみるんだ』というわけで、それを頭に入れて2代目総長に会ってきました。」「おお、それでそれで」「初代が言われたことを利用してメンバーをやめさせて欲しいと、結婚することになったので、そうお願いしたら、予想以上に反応が良くて」「お、おうそれで・・・」 「『水城、たとえお前がブラック・キングのメンバーではなくなったとしても世が世ならお互い徳川将軍家の旗本だ。今は東京と言うがこの江戸の空の下で精一杯生きて行こうぜ、な!』って何だか芝居がかったセリフですが、何故だかこう、名残惜しくなるような熱い激励を受けてきれいにやめさせてもらってきました」 「そうか・・・良かったなあ水城・・・これで俺も、いや夕子ちゃんも安心して結婚できるってもんだ・・・目出度い!本当に良かった!・・・・・」「リョウさん・・・・・・・・」 「おい、水城!おまえは何回言っても分かんねえなぁ、この部屋は禁煙だって・・・そう言っただろ」「あ、やっぱりそう来るわけですか・・・」 水城はテーブルの上の灰皿を見た。( これだけ吸っておいて、禁煙だなんて・・・・)いつも応援頂きありがとうございます。今日もよろしくお願いします。(^^♪