カテゴリ:女に酔わず酒に酔え
月谷小夜子 女に酔わず酒に酔え
楽天ブログ仲間の土壇場サヨコさんこと、月谷小夜子さんの著書である。 楽天ブックスで絶賛発売中!! 残部僅少!!! ちなみに、「小夜子」はオミズの世界に飛び込んだ時に自ら名付けた源氏名だが、「月谷」は、驚くなかれ、戸籍上の本名だという。 何とまあ、ロマンチックな苗字! だが、生まれついての苗字ではないという。 えっ!?!・・・この本を書いた時は独身だったのに? 何というミステリー! 松本清張「砂の器」に、“戦争や大災害時などにおける、本人の申し立てによる本籍復活”の手続きが、重要な知能派トリックとして出てくるが、そういった類いだろうか? ・・・とか言うほどのことでもないか 別れた亭主の苗字である。 苗字だけは気に入って、今も使っているという。 (現在は再婚なさったので、その辺がどうなっているのかは、まだ本人に聞いていないが。) さて、小夜子姐さんは、これまでとことん男運に恵まれなかった。 まず開闢は、父親だった。 父親は、旧帝国大学を出たほどの、その世代としては社会的超エリートであり、サヨコさんも裕福な少女時代を送ったが、いかんせん父親は少しロマンチシズムが強すぎる人物だったのか、外に女を作った。 次第に家に帰らなくなり、どちらが妾宅(しょうたく)だか分からないぐらいになった。 サヨコさんは10代の頃、自分と7歳しか年の違わないその妾(めかけ)と対面したこともある。修羅場であった。 「どちらも好きなんだ。分かってくれ」という父親を、サヨコさんは処女の潔癖性で責めた。 嫉妬に狂った母親は、どちらがきれいかとサヨコさんを問い詰め、挙句の果てに「お前のために離婚しないのだ」と呪文のように繰り返した。 ついに切れたサヨコさんは、母を引き取り、水商売の世界に飛び込んだ。 その父親は、ほどなく死んだ。 もう一つの修羅場と愁嘆場があった。 サヨコさんも本書の中で言及している「女性の『オトコ運』は父親できまる」などで知られる岩月謙司氏の著書に照らしても、問題のありすぎる不幸な少女時代だった。 岩月氏の論法によれば、毒リンゴを食べ(させられ)た白雪姫である。 ちなみに、岩月氏の、深層心理の最新知見に基づき、深い人間洞察に溢れた著書は、僕も愛読しているし、娘3人をもつ身として今後も精読しなければと思っている。 →岩月謙司ホームページ お店のママになったサヨコさんが知り合って結婚した男は、たぶんいい男だったのだろうが、妻子を養うという感覚がなかった。 働く気力がなく、一日中よくも寝ていられると思うほどに寝ていた。 サヨコさんが一所懸命に稼いでも稼いでも、ザルで水を掬うようにお金はなくなった。 我々読者から見れば、俗に言う「ヒモ」だったと言っていいだろう。 もっとも、この言葉を、本書の中で著者は使っていないが。 そのほかにも、このダメ亭主に対する筆致には、意外な節度が感じられる。 もちろん、まさか未練ではあるまい。著者の優しさの発露だろう。 四角いインスタントラーメン一個をキャベツで増量させて、女の子と男の子の2人の子供に食べさせた。 「おかあさんは食べないの?」と、孝行な娘が母を気遣った。 ある日、お金がなくなったことで詰め寄るサヨコさんに、ダメ亭主は、子供がやったととれる言い訳をしてとぼけようとした。 サヨコさんの中で何かが切れた。 お嬢さんは、いつもサヨコさんの味方だった。 「ママには男を見る目がない」と言われた。 サヨコさんは九州女である。いざとなったら強い。 お嬢さんの心の助けもあり、ダメ亭主をすっぱりと切り捨てて、身も心も軽くなった。 ――こうした人生の地獄が、淡々とした、しかも温かさを失わない筆致で描かれる。 すばらしいの一言だ。 お嬢さんに言わせると、一人で頑張っている母を見ていると、かわいそうでグレることもできなかったのだそうだ。 ここ、感動した。 親の後姿を見て子は育つ、というありふれた言葉があるが、どれだけの親が現実に実践できているだろうか。 そんな彼女は、弟から「カリスマ姉」と呼ばれている。 電車の中で騒がしい子供を見ると、その親に啖呵を切るほどの女丈夫である。 こういうところは、誰に似たのであろうか? そのお嬢さん、今は東京・新宿のIT企業でウェブデザイナーのチーフになっている。 コミック同人誌作家であり、イラストレーターの夢も持っている。 彼女の前途に幸あれと蔭ながら祈るのは、書評の範疇を超えているだろうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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