カテゴリ:新聞歌壇
日経歌壇より 僕の好きな短歌 日本経済新聞 7月13日付
岡井隆氏選 いくたびも遠ざかりゆきぬそれなのに近づいてくる沈黙の欅 仙台 平野由美子 【僕の寸言】謎めいた象徴的表現だが、分かる。僕にもこのケヤキがあるような気がする。 ひよどりに毀たれつづけ五度目なる巣づくり急ぐ燕悲しき 和歌山 勝山佳子 【僕の寸言】こういうことがあるのかと、はっとさせられる。まことに哀れ。写実(リアリズム)の佳作。 銀行のATMの列の中悲しい顔の君を見つける 京都 奥田順平 【僕の寸言】こういうシチュエーション、あるあると思う。声をかけようか、どうしようか。・・・この「君」は同性だろうか、異性だろうか。 穂村弘氏選 水中の生きもの何の動くらむ水は浮葉をすべりて消えつ 横浜 石塚令子 【僕の寸言】繊細な観察眼がそのまま歌になったようだ。個人的には、1句目は「水底(みなぞこ)の」とでもしたい。 翼生えても差し障りなき服と背中見て行く夕映えの街 横須賀 丹羽利一 【僕の寸言】面白い。日常の一齣の中の、ちょっとしたシュールな幻想。この夕映えの中に僕も身を置いてみたい。「翼生え/ても差し障り/なき服と」と句またがりだが、韻律も合っている。技あり。 ガラ沢に足とられたり一瞬のくるり傾き虚空を掴む 仙台 平野由美子 【僕の寸言】この平野さんという方、ものすごい競争率の新聞歌壇で、同一日に2首掲載。並々ならぬ力量である。普通なら、「ガラ沢に足とられたる一瞬に」とするところだと思うが、この文法的な微妙なギクシャク(脱臼)感は、おそらく意図的か。「ガラ沢」という言葉が生きている。 * 難読と思われる字に、適宜ルビを振りました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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